生物記号論

今投稿中の3本のpreprint,最後に書いたものは一番審査が難航していて,アナロジーが曖昧で数学と生物学との対応がよく分からんという意見になるみたい.例えばこのシンボルで表されるものが何なのか分からない,というのだけれど,引用されている前2本のpreprintも含めて読めばちゃんと分かる筈.一応別の論文なので,自己剽窃は出来ないので概略だけ書いてあとは引用を辿っていくことになる.そもそも3番目の論文の中で既にちゃんと記述されているシンボルですら分からないというので,内容がちゃんと伝わっていないのは事実らしく,いろいろ校正した方がいいのは確かみたい.多分,多くの研究者には馴染みがない考え方が多いのだと思う.

 

ここで出て来たアナロジー,というよりは記号論として捉えた方がより正確だと思うのだけれど,これに関しては日本語の概観としては例えば川出由己『生物記号論 主体性の生物学』(京都大学学術出版会)にある程度詳しく記載されている.川出先生はパースの「記号」の三項関係,即ち表意体 (representamen,生物なら化学構造),対象 (object,生物なら物理化学的性質・機能),解釈項 (interpretant,生物なら生物学的機能・役割) をもってして,物理・化学的でない生物の持ち得る特質として生物学的な意味の解釈項がメタに浮かび上がることを提唱している.それに解釈の多義性として機能の多義性・非決定性も加わり,正に人間の言語や文学に準えられる話になって来る.これはJacques Monodが任意性や無根拠性として提出した概念をさらに深化させた,記号論である.そのような記号論上で,生物は個体・環世界・社会の切り口において主体的に考察される.元々生物の実体は日々刻々と入れ替わる原子や分子その物にあるのではなく,それらの相互作用が織りなす関係性にあることから,その関係性を例えば数学なら圏論や層・トポスの言葉で考えるのは自然であり,記号論はそうした基礎数学と親和性は高い筈.数学畑で生物学に興味がある方は,川出由己『生物記号論 主体性の生物学』(京都大学学術出版会)を一度読まれることをお薦めする.

 

こういったメタな事象を多角的に考察するのは生物学としては自然な筈で,例えば私のpreprint 3本なら個体群動態と種の動態がフラクタルとして捉えられ,個体群動態のレベルの上層構造として種の次元がメタに誘導されるので,こうした考え方の流れをくむと考えられる.メタな事象を多角的に考察するのは何もこういう込み入った事象を学ばなくても,例えば臨床疫学なら変なパターン認識に勝手に陥ってステレオタイプの発言をするのでなく,事象の背後にある関係性を出来るだけ多くリストアップし,どれがどの程度確からしくてどの程度そうでなさそうなのかを判断し,適切なコントロールを取ることにより考察して行くことにも現れている.最近,基本がちゃんと出来ているのかどうか怪しい人が多いので,例えばFletcher et al. “Clinical Epidemiology THE ESSENTIALS” (LWW) の豊富なExamplesやReview Questionsに触れて,基礎的なことを確認することも有意義だと思う.

 

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