SIVSモデル

数理疫学の世界には,SIVSモデルというモデルがあります.

 

2000年頃に提唱されたモデルで,それに関する論文には例えば,

 

https://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.4966945

 

https://link.springer.com/article/10.1007/s11071-019-05371-1

 

などがあります.Sは感染症に対する感受性保持者,Iは感染者,Vはワクチン接種者で,感受性保持者が感染かワクチンの接種により免疫を獲得した後,それを失ってまた感受性保持者になるまでをモデル化しています.SIRモデルとは,免疫保持者がRとして永続するのとが大きな違いです.COVID-19の場合,コロナウイルスはどれも元々免疫が1年未満しか持続しないことが分かっていたのですから,SIRモデルが適用出来そうにないのは最初から予想されていました.現在はワクチン接種者に関するパラメータも大雑把に評価出来るようになって来ていますから,SARS-CoV-2の数理疫学は少なくともSIVSモデルベースで考えた方がいいでしょう.数理疫学が専門でない人は兎も角,専門の人まで20年以上前に提唱されたモデルでなくSIRモデルを使う必要が分かりません.そもそも,SIRモデルはエンデミックな定常状態や周期的流行など,実際のSARS-CoV-2の感染ダイナミクスに深く関わる現象を説明出来ません.SIVSモデルではウイルスの変異までは考えていませんが,モデルの短期的な有効性はあると思います.

 

モデルのパラメータはいろいろあるので一概には言えませんが,基本再生産数が2を超えるとワクチンのみによるウイルスの撲滅は難しくなり,3を超えると経済的にもワクチンが無意味になることもあります.SARS-CoV-2野生株の基本再生産数は2.9,アルファ株は4-5,デルタ株は5-9くらいあると予想されます.これらのことから,ワクチンはその程度問題は詳しく解析しないと分かりませんが,あまり意味がないものになって来ると予想されます.最後の部分はSIRモデルでも予想されることなので,ワクチンの有効性に関して再考する段階に入っているのでしょう.論文の査読はやはり勉強になります.