藤子不二雄Ⓐさん逝去,ワクチンの経済性の論文の査読

哲学書思想書・歴史書・文学書・教育関係の書物を段ボール箱6箱分くらい古書店に売りに行って査定してもらったのが2022年4月6日のことだった.その翌日,2022年4月7日の午前中に代金を支払ってもらい,帰って来て昼食を取ってネットニュースを見たら,藤子不二雄Ⓐさんが死去とのことでビックリした.『笑ゥせぇるすまん』や『まんが道』など,子供の頃から好きだった作品はたくさんある.天国でも「最後の一作」として構想していた漫画を始め,漫画を描き続けて下さい.

 

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数学系の方がワクチン戦略の経済性をどう判断するかの論文をある雑誌に投稿していたとのことで,その査読をしている.複数のアドバイスのうちの1つとして,実データで計算してみたらどうかと提案したら,リビジョンでその結果が出されていた.それによると,台湾のある時期のデータではワクチンをバカみたいに打っても意味はなく,実際には接種率をもっと減らしていた方が(経済的な意味で)効率的だったとのことだ.モデルでは計算してみないと分からない,非自明な特徴が多く現れていた.日本ではどうかというと,パラメータの値が全然異なると思われるので計算してみないと分からないが,経済性の判断基準を与える仕事としてはかなりいいものだと思う.

 

Twitterでのワクチンについての話の流れではまるで小学生くらいの子を相手にしているかのような素朴な言い回しが大勢を占めているが,こういう問題は非自明なことがたくさんある.見ていると前提が間違っていて話にならなかったり,その前提からはその結論は必ずしも導き出せないということが多くある.

 

数研出版の高校生物の新課程の生物図録ではコロナウイルスの特集があるが,そこではPCR検査の感度が7割くらいで3割は「偽陰性」になるとか,COVID-19の始まりの時にある中国人が特に根拠もなく適当に述べただけのことがそこら中に広まってさも事実であるかのように述べられている.こういうのも間違った前提になりやすい.PCR検査以外にもっと良い感度でサンプル内のウイルスの存在を保証する対照実験をする方法がないのだから,図録に書いてあるようなことは論理的にあり得ない.同じサンプルを何回もPCRして,その7割の頻度でしかシグナルが得られないのなら話は分かるが,そうでないのはPCRの実験をしている人なら分かる.検出の問題になるのはサンプルの調整段階で,PCRという技術自体の問題ではないということだ.そこも曖昧にして話をしようとするからどんどん変な方向に行く.PCRが7割しか成功しないと思い込んでいる人が多い.

 

日本感染症学会は昨期にインフルエンザに罹った人が少ないので今期はその反動で増えるかも知れないので警戒を,と言っていたが,今期もインフルエンザの罹患数はとても少ない.これも感染症対策のおかげだろう.そもそもインフルエンザウイルスに対する免疫は6ヶ月ほどしか続かないので,昨期の罹患率がどうだったかは今期とは何の関係もない.日本感染症学会は基本的な免疫学の知見も抑えられていない,そういうレベルの学会なのでいろいろな所から文句を言われている.

 

こういうことを正しいと思い込んでいる人たちは,自分たちの話の展開を妨げるような反証的な状況を上手く思い描けていないように見える.NatureとかScience, Cellもどうかと思うが,専門誌上はもっと着実な(話の流れという表現がそぐわない)論理展開が為されている.Twitterはあくまでも一次情報を集める場で,推論をする場ではないということだ.推論は大抵妥当ではない.