Fortuna caeca est.

暁佳奈原作,京都アニメーション制作のアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』というTVシリーズ+劇場版2作がある.メインストリームのアニメとは異なりミニシアター系の香りがあり,京都アニメーション放火殺人事件を乗り越えて完結した作品だ.TVシリーズのEDテーマ『みちしるべ』はハッピーエンドを迎えた本作品を象徴する筋立てになっている.


www.youtube.com

 

しかし,人生経験を積んで行くとその歌詞の中に本来は含まれていなかった筈の筋が見出されるようになることもある.ラテン語で “Fortuna caeca est.”,つまり「運命の女神は盲目である.」という表現がある.運命というものを感じてもそれは秩序が合理的に達成されるものではなく,不可解な悲劇となるというモチーフはローマ時代からある.ローマ時代のラテン語小説の中で唯一完全な形で残っていて,現代でもなお評価の高いアープレーイユス『黄金の驢馬』の中でもこのモチーフは登場する.それから西洋の古典文学の中には繰り返しこのモチーフが登場し,キリスト教の主流とは異なる「合理性の欠いた神」より齎される世界としての見方は昔からあった.何事も全て筋道が通る,というのが信じられないほどの運命を女神が齎すという感覚は,ごく昔からある人間の本性に根ざし,生活環境や文化の違いを超越するものだ,というのが文学を読んでいて思うことである.