墨攻

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これに関連して,日中韓香港合作の映画『墨攻』を観ました.舞台は戦国時代の中国で,趙と燕に挟まれた小国の梁と趙との城の攻防戦を描きます.原作は小学館漫画賞を受賞した漫画で,そのさらに原作は酒見賢一の小説です.小説は梁城の落城で終わりますが,漫画はその後の主人公の暗躍が描かれています.映画の方は漫画版に基づくも,梁城側が趙を追い返したところで終わります.

 

この話に出て来る墨家とは古代中国の十一家の一つで,平和・博愛主義の実用的武装集団です.開祖であるBC5-4世紀の墨子は兼愛交利説などで平等を重要視し,差別的な仁の排他性を非難して儒家に対抗した実用主義者で,比喩や反復を多用して一般民衆に訴えかけました.専守防衛である非攻も唱えています.また,宗教的には鬼神がこの世に存在して人々の善悪を知り,それに応じて人々に賞罰を下すという明鬼論を唱え,鬼神の存在を明言しない儒家を批判しました.さらに,天子だけを説得の相手として天意を知る天志論を展開しました.3代目の指導者の孟勝が城の防衛に失敗して集団自決するなど,狂信的な色彩もあったようです.墨家は韓非の思想を盗んだ秦の天下統一の後に忽然と姿を消しますが,近代になってからは西洋のキリスト教との類似が話題になったようです.

 

映画『墨攻』は主人公の革離が有能ではあるが,人の妬みなどその本質を蔑ろにするなどの失策をしたとして,結局は梁渓の笑いと焼けて落ちゆく建物の木組みが重なるカットと共に暗愚の君の一時的な勝利に終わります.弓兵たちも去って行きました.墨子の兼愛思想への疑問も投げかけられます.戦いの中での兼愛交利という矛盾しそうなテーマをどう解くかに話はかかっていました.作中では戦国の世が終わるまではこのような状況は続くとされていましたが,実際は漢代になってもまだ匈奴と戦っていたりするので,戦乱は続きます.因果という字幕がありましたが,因果は仏教用語であり,仏教が中国に伝来したのはAD1世紀頃の筈なので,翻訳に誤りがあるかも知れません.当時の女性の描かれ方にはちょっと違和感を覚えました.