Entries from 2023-08-01 to 1 month

ティラン・ロ・ブラン

ジュアノット・マルトゥレイ『ティラン・ロ・ブラン』について文章3つを書いてみました. ティランの足跡 ティランはイングランドのある領主とブルターニュ公の娘の間に生まれ,イングランドで騎士として修養を積み,フランスの王子と共にポルトガル経由で地…

わがシードの歌

『わがシードの歌』について短文3つを書いてみました. 『わがシードの歌』の口承文芸の痕跡 聴衆への語りかけ,複数の詩行へのまたがりの少なさ,常套句の多用,口語構文の使用などがある. シードとキリスト教徒,異教徒との関係 キリスト教徒に対しては同…

西遊記

『西遊記』について短文2つを書いてみました. 三蔵は『西遊記』の中ではなぜ弱々しいのか 三蔵一行が苦難に遭うことをドラマチックに描こうとすれば,苦難に遭う本人の三蔵が弱々しくないと残りの一行の活躍の場が無くなるから.また,三蔵が弱々しくないと…

遊仙窟

張鷟『遊仙窟』について文章3つを書いてみました. 『遊仙窟』と「桃花源記」,『幽明録』の比較 「桃花源記」とは,桃が生命力や異世界の象徴であったことが共通している.『幽明録』とは,桃と川の登場など日本の桃太郎との共通性がある.理想郷へ行くとい…

黄金のろば

アプレイウス『黄金のろば』について文章2つを書いてみました. 作中物語の一覧 (I)話者アリストメネスの友人ソクラテスが魔女メロエに殺害された話,(II) ミロの語る偽占い師ディオパネスの話,(III) 話者テリュプロン自身が死人の番をしている間に魔女に鼻…

アエネイス

ウェルギリウス『アエネイス』について文章2つを書いてみました. アエネアスの受けた予言 デロス島でアポッロから「頑健なるダルダヌスの末裔よ,汝らをば父祖たちの始祖から初めてもたらした大地こそが,汝らを豊かな乳房をもって帰還者として迎え入れるだ…

オイディプス王

ソポクレス『オイディプス王』について文章2つを書いてみました. ソポクレス『オイディプス王』の筋でアイスキュロス『テーバイを攻める七人の将軍』にはない伝説的要素 まず,テーバイが酷い疫病と飢饉に見舞われ,オイディプスの存在により神の怒りをかっ…

オデュッセイア

ホメロス『オデュッセイア』について文章3つを書いてみました. オデュッセウスの出会う困難と対処法 第9歌:トロイアからの帰途で,オデュッセウス一行はキュクロプス族の島に流れ着く.洞窟に入るとそこは隻眼の巨人であるキュクロプス族のポリュぺモスの…

シャーロック・ホームズ

シャーロック・ホームズについて短文3つを書いてみました. 大久保譲の新歴史主義 新歴史主義は「歴史のテクスト性」を強調し,歴史を「『主観的』な文学作品の外部に,確固として存在する『客観的』な事実ではな」く,それ自体ある観点からなされた主観的解…

ポストコロニアル批評

ポストコロニアル批評について短文5つを書いてみました. サイード『オリエンタリズム』の「序説」要約 東洋については,政治的な「代表/代弁」と異文化の表現や描写における「現実の再提示」,その両方の意味における「東洋の表象」という視点がある.その…

フェミニズム批評

フェミニズム批評について短文7つを書いてみました. ケイト・ミレット『性の政治学』での男性作家の性差別主義的描写の批判 法的な男女平等の実現,生物学的なセックスという概念に対する文化的なジェンダーの視点を取り込んだ社会的・文化的な性差別の撤廃…

マルクス主義批評

マルクス主義批評について短文4つを書いてみました. マルクス主義批評の概要 マルクス主義批評は上部構造/土台論,唯物論的弁証法に基づく階級闘争論,イデオロギー論からなる.上部構造/土台論は生産関係の総体からなる経済的機構という土台と法律的,政治…

精神分析批評

精神分析批評について短文4つを書いてみました. ポー『盗まれた手紙』に関するラカンの解釈 デュパンによるD大臣からの手紙の奪還は最初の王妃からのD大臣による盗みの場面を正確に反復している.何も見ていない視線は王と警察,その何も見ていないことを見…

ナラトロジー

ナラトロジーについて短文6つを書いてみました. ジェラール・ジュネット『物語のディスクール』の用語の定義 レシ:物語テクストそのもの イストワール:語られる内容としての物語 ナラシオン:物語を語る行為 時間:物語テクストが物語内容をどのような順…

『黄金のろば』評

主人公のルキウスは金持ちの市民のお坊ちゃんで物語冒頭では世間知らずであった.それが手違いからロバに変身してしまったことでユーモラスな孤独感と不安感と共に浮世の有り様を風刺的に観察し,実際に体験もすることになる.まず魔術の秘密を知りたいとい…

小説の分析

小説の分析に関する短い文章を4つ書いてみました. カフカ『変身』の解釈 カフカの『変身』には,最初にカフカ自身がベンヤミン的な「物語文学」として考えていたように,ユーモラスな孤独感や不安感のある文学としての解釈がある.一方,後世において一般化…

松尾芭蕉の辞世の英訳

松尾芭蕉の辞世の句「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」を英訳すると,「I got sick in a travel and my dream runs around in a dry field」となる. 一文目の “in a travel” と二文目の “in a dry field” が対応し,句頭が同音で拍数が揃っている. “travel”…

「猫の死骸」評

海綿(かいめん)のやうな景色(けしき)のなかで しつとりと水氣(すゐき)にふくらんでゐる。 どこにも人畜(じんちく)のすがたは見えず へんにかなしげなる水車(すゐしや)が泣(な)いてゐるやうす。 さうして朦朧(もうろ)とした柳(やなぎ)のかげ…

詩と戦争

日本では,詩と戦争の関わりとして戦時体制下の言論弾圧に対する反発としての詩が詠まれたことがある.戦争の足音が近づいた1920年代には北川冬彦「馬」や安西冬衞「春」などが詠まれた.戦争の時代の1930-1940年代には金子光晴「泡」,小熊秀雄「現実の砥石…

「詩の危機」を読む

ステファヌ・マラルメ『詩の危機』の一節に,次のようなものがある. たとえば私が,花!と言う.すると,私のその声がいかなる輪郭をもそこへ追放する忘却状態とは別のところで,[声を聴く各自によって]認知されるしかじかの花々とは別の何ものかとして,…

「春望」を読む

国 破 山 河 在国破れて山河在りくにやぶれてさんがあり城 春 草 木 深城春にして草木深ししろはるにしてそうもくふかし感 時 花 濺 涙時に感じては花にも涙を濺ぎときにかんじてははなにもなみだをそそぎ恨 別 鳥 驚 心別れを恨んでは鳥にも心を驚かすわか…

ハロウィンとしての『君たちはどう生きるか』

宮崎駿監督のアニメ映画『君たちはどう生きるか』では,「下の世界」は元々宇宙からやって来た大きな建造物にその端を発し,様々な時間・空間での事象を結びつける扉がたくさんある.この建造物は時空間を超えた繋がりを生み出す仕掛けになっているらしい. …

詩と絵画

詩を読むことにおいては,テキストを読む時系列に沿って時間の要素が加味される.一方,絵画それ自体は静的な表現である.詩においては時間の概念によりダイナミックな表現ができ,またリズムや韻などで周期的な表現も可能である.実際に発音するにしろしな…

『妖精の女王 第I巻』まとめ

エドマンド・スペンサー『妖精の女王 第I巻』についてまとめてみました. *** まず,ユーナの両親の救出を目的とすることには,アダムとイヴ以来の原罪を抱えた人類の堕落と救済というテーマが寓意となって現れている.これは赤十字の騎士を聖ゲオルギウ…

『サルガッソーの広い海』評

ジーン・リース『サルガッソーの広い海』について短い評論を書いてみました. *** 『サルガッソーの広い海』の主な登場人物は,主人公の白人クレオール女性のアントワネット,その母の白人クレオール女性アネッタ,弟で白人クレオール男性の障害児ピエー…

『盗まれた手紙』評

エドガー・アラン・ポー『盗まれた手紙』について短い評論を書いてみました. *** この作品における「見ることと同一化すること」という観点に注目すると,まずデュパンが「考え事をするんだったら闇の中のほうがいい」と言って,ランプをつけないシーン…