ナラトロジー

ナラトロジーについて短文6つを書いてみました.

 

ジェラール・ジュネット『物語のディスクール』の用語の定義

レシ:物語テクストそのもの

イストワール:語られる内容としての物語

ナラシオン:物語を語る行為

時間:物語テクストが物語内容をどのような順序,速度,頻度で伝えていくか

叙法:物語言説による物語内容の再現のあり方

態:語り手と聞き手を中心とした物語言説の生産のあり方

 

マルセル・プルースト失われた時を求めて』の第一編『スワン家の方へ』のナラトロジー

語り手については,一人称の使用が主人公の経験に対して語り手がいつでも自由に注釈を加えることを可能にした.また,主人公の個人的経験から大幅にはみ出る広大な物語内容を語ることが可能になった.第一部では語り手の時間的位置としては,主人公が回想する各エピソードの後に語り手は位置している.物語内容の時間的位置が語られる時間よりも全て過去に位置しているが,そこに現在進行形で語り手が注釈を加えて行く.回想スタイルが重要な表現となる.第二部では語り手が三人称の語る話を書き留めた形で,主人公の心理に切り込みつつもそこに注釈を加えて行く.これも過去の話で,語り手の誕生以前の物語の回想である.第三部は幼い語り手の物語で,これも回想である.

 

夏目漱石『文学論』のナラトロジー

小説とは写生文の実践であり,一人称が等質物語世界的語りを内的焦点化において描くものだった.その為,読者と観察者を近づける必要があった.

 

ロブ=グリエ『嫉妬』の焦点化

ロブ=グリエの『嫉妬』では,内的焦点化が限界作品として完全な形で実現されている.中心的な作中人物はその唯一の焦点位置に絶対的に還元され,そこからのみ厳密に演繹される.名前が出ている3人の登場人物以外の,当事者として存在している焦点人物である.その焦点が情報へのバイアスを明らかにかけていく.語り手の一人称はないのに自己物語世界的となる.

 

二人称を多用した小説

ビュトールの『心変わり』などがある.二人称を用いて異質物語世界的としながら三人称のような非人称はなく人称的な話として成立させている.対話として手紙や日記などの二人称と類似している.しかし,二人称文学には語り手が二人称の主人公自身であるとする要素も含まれていることにおいて自己対話的な要素も含まれている.

 

村上春樹アフターダーク』の一人称複数形の効果

「私たち」には語り手に人称性を付与させ,読者と目線を共有させるとともに,そこから外れることで全知の語り手を強調させることができる.