詩と絵画

詩を読むことにおいては,テキストを読む時系列に沿って時間の要素が加味される.一方,絵画それ自体は静的な表現である.詩においては時間の概念によりダイナミックな表現ができ,またリズムや韻などで周期的な表現も可能である.実際に発音するにしろしないにしろ,音楽的な表現も詩には含まれている.一方,絵画でそのようなダイナミックな表現を試みるなら,絵の部分によって時系列を変えて表現したり,時間変化を象徴する表現を入れるしかない.また,リズムや韻などは絵の規則的パターンで表すことになる.そういった意味で,ダイナミック性においては詩の方が表現の自由度が高い.さらに,詩はテキストだが絵画はイメージである.テキストは人間の頭の中の概念と繋がり意味が比較的明確だが,絵画はそれ自身では物体の見かけのみであり,意味の繋がりは鑑賞者の自由裁量に委ねられる部分が多い.その為に詩のメッセージは比較的明快で,絵画のメッセージは解釈の自由性を含むものとなる.とは言え,詩においてはことばの海の中から文字列の連なり,相互関係,全体との関係,かたちのあり方などが提案されるので,詩の表現の自由度が低い訳ではない.また,多義性を含ませることも可能である.詩のことばの連なり自体に視覚的表現を持たせることも出来る.そういった意味でホラティウスは詩と絵画の類似性に注目した.詩と絵画を組み合わせた表現も可能である.ただし,絵画は表現の並列提示が主体だが,詩では逐次提示しか出来ないことは主たる異なりとして捉えることが出来る.時間の絶対性を示すのなら詩が,それを破りたいのなら絵画の方が適している.