COVID-19の話題はあまりしたくないのだけれど,怪しげな言説には事欠かないので例を2つ.
- PCR検査の「偽陰性」「偽陽性」(という言葉を使うこと自体が誤りらしいが)を心配する人が,PCR検査はダメだということでほぼ確実にそれより感度も特異度も何桁か悪くなる抗原抗体反応による迅速診断キットが出来ればPCRではなくそれを積極的に使うべきだと言う.これは明らかにダブルスタンダードで,矛盾した態度である.そもそも迅速診断キットで当たりをつけた後,感染症による病気の確定診断にはPCR検査を行うというのが通常のプロトコルで,今回はまだ抗体が使える状態にはないのでPCR検査からしているだけという話である.陽性が疑われる場合はどの道PCRをしないと診断が確定しない.そもそも迅速診断キットで「偽陰性」「偽陽性」の出る割合を算出する根拠がPCRである.無駄なPCRをなるべく避けることが出来るというのはそうだけれど,読んでみるとPCRを何故そんなに毛嫌いしているのかが不明である.どんな検査なのか何も分かっていない人がごく限られた印象と,数値が一人歩きしただけの根拠のないデマで物を言っている.
- SARS-CoV-2には全世界で60-70%の人が感染するという予想をしている人がいるらしいが,中国でさえ現在(3/11)の累積感染者数は8万793人で人口の0.006%ほど,前日からの伸びは15人で人口の0.000001%ほどであり,鈍化傾向にある.ここから中国で8億人以上が感染するにはまたぶり返さないといけないが,それに対してどういう説得力のあるモデルがあるのか不明になる.誰が言っていても,俄かには信じがたいモデルである.
この2例は最近特に目立っていたけれど,落ち着いて餅でもつけば無心になれる.
【追記】デング熱のイムノクロマト法は感度・特異度ともに100%という記述がありましたが,業者が持ってきたデータを鵜呑みにしてはならないという鉄則があります.近い技術では,
やその原著論文にあるように, PCRほど精度は良くないです.KURABOからはSARS-CoV-2のイムノクロマト法による(診断用でない)研究用検出キットが出たそうですが,
その元論文はこれです.https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jmv.25727
感度88.66%,特異度90.63%は(SARS-CoV-2に関しては具体的な値は私も知りませんが)常識的なPCRよりは成績は悪いです.これでどの程度偽陰性,偽陽性が出るかは適当な設定で計算してみて下さい.