【追記あり】イギリスの首相顧問の発言

イギリスの首相顧問が 人口の60%ほどの4000万人の人々にコロナウイルスを感染させ,免疫をつけさせてアウトブレイクに対応すると言っているらしいですね.

 

https://www.dailymail.co.uk/news/article-8108271/Chief-scientific-adviser-wants-60-percent-entire-population-catch-coronavirus.html

 

イギリスだけで最悪120万人前後の人が亡くなるとしていますが,本当にそういう対策を取るのでしょうか.リンク先にも他の方々のコメントがありますが,イタリアやイランなどの状況を踏まえるとまだ収束の兆しが見えないにせよ,一体どういう数理モデルで中国(感染者数は人口の0.006%)や韓国(同じく0.02%)の状況とも食い違う言説を振り撒いているのでしょうか.意味が分かりません.他にもこの戦略中に新たな系統のウイルスを生み出すとか,医療システムに多大な負担を与えるとかいろいろ言われていますね.

 

リンク先でも触れられている今後どうなるかについてですが,それに関してはウイルスを完全に追い出すことは出来ないというのは正しそうです.SARS-CoV-2は天然痘ウイルス(2本鎖DNAウイルス)と違って1本鎖RNAウイルスで,進化の速度が速いので,天然痘ウイルスのようにワクチンで撲滅出来るタイプのウイルスではありません(ワクチンで撲滅出来たウイルスは今までのところ天然痘ウイルスのみで,HBVやHPVにもいろいろ問題があります).RNAウイルスの中では季節性インフルエンザウイルスにワクチンの効果は一定限度ありますが,鳥由来の新型インフルエンザが頻繁に出て来ますし,HIV-1にはワクチンは効果的でなく薬で押さえる形で,SARS-CoV-2でもワクチンよりは薬の方が効果的になるだろうとのことです.ワクチンは相手が一定の遺伝情報を保ってくれない場合にはあまり効果がありません.

 

SARS-CoV-2はアウトブレイクが下火にはなってもウイルス自体は今後ずっと残るだろうとのことです.また,SARS-CoV-2はおそらくコウモリ由来のウイルスが何らかの二次宿主を介してヒトに広がった物でしょうが,そういうウイルスは今までにSARS-CoVやMERS-CoVがあり,10年弱おきくらいにいつもアウトブレイクがあるので,コウモリに分布するSARSr-CoVから最終的にはヒトへ広まるウイルスはそのくらいの時間スケールではいつも新型ウイルスとして見られる可能性が高いです(今までも気付かれなかっただけでそうだったのかも知れません).COVID-19の前に既にそういう予測が立てられていました.もうそろそろこういった自体に対する何某かのストラテジーを立てた方が良いような気がしますが,別にエボラウイルスアウトブレイクしている訳ではないので,事の深刻さに見合ったストラテジーが望まれていると思います.

 

コウモリ自身にはSARSr-CoVは病気を引き起さず共存しているので,コウモリ(や近縁のウイルスが見られるネズミ)のウイルス学にそろそろ真剣に取り組む時期かも知れません.

 

追記あり】上記のブログを書いた後にTwitterを見てみたら,「o0( それはさておき、新しいネクタイが届いた。偽陽性とか何とかの議論とか説明をする際にしめていく所存。)」というTweetを見かけた.多分PCR電気泳動のバンドが柄になっているネクタイの写真を見せているつもりなのだと思うけれど,どう見てもタンパク質のSDS-PAGEの染色ゲルの写真にしか見えない.モノも実験の目的も全く違う.Twitter上はヘンな人が多いので,予備知識のない方々は情報源にしない方がいいと思う.