続・SARS-CoV-2が武漢研究所から流出したという説

前編:「研究所説」を甦らせた素人ネット調査団,新型コロナの始祖ウイルスを「発見」!

後編:武漢研究所は長年,危険なコロナウイルスの機能獲得実験を行っていた

 

という記事がNewsweekに出ているようです.

 

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/06/post-96453.php

 

内容は主導している人の宣伝みたいな冗長な情報ばかりで,長い割には事実関係の記述があまりないので読む必要もないでしょう.色々なことがゴッチャになって,標題のような根拠のない主張をすることになったようです.

 

注意しておきたいのは,中国政府が情報を隠蔽する体質のあることが混ざっていることです.関係者の発言が信用出来ないことはそれで全て説明出来ます.ウイルスのサンプルが取りやすい場所に建てられた研究所の近くでウイルスによる感染症が広まり始めたことは,特に驚くに値しません.「研究所から流出した可能性がある」と考える人のほとんどは,野外サンプルが何らかの原因で流出した可能性は捨てきれないからそう言っているだけで,それも根拠がある訳ではないので,普通の人は歯牙にも掛けません.組み換えウイルスが流出したというのはナンセンスです.素人ネット調査団はこの記事上の情報からは始祖ウイルスなんか同定出来ていないように見えますし,コロナウイルスの機能獲得実験が行われていたという証拠は記事内には何一つありません.記者はそもそも組換え実験の定義が分かっているのかどうかも怪しいです.コロナウイルスの組換え実験は非常に難しく,RNAベースでは難しいのでDNAを経由する形に改変したら,培養細胞に感染させた系から何週間かしたら組換えウイルスがちょっとだけ増えたり増えなかったりとか,そういうレベルにしか現在はなっていません.機能獲得実験の大分前の段階で躓いています.本当に機能獲得実験が行われていたなら,ノーベル賞どころではない稀代の優秀な実験研究者がいることになります.隠れていないで出て来て欲しいものです.

 

PCRのように材料と機器があってプロトコルを理解していれば家庭料理を作るよりも手軽に再現性がよく出来る実験とは違うのです.世の中にはPCRによるSARS-CoV-2の検査の特異度が99%とか99.9%とか異様に低く設定するのが好きな人がいますが,仮にそうなら校正機能がない系ではゲノムサイズが100塩基対とか1000塩基対が上限になってしまいます.実際にはそうなっていないので,核酸ベースの複製が如何に正確かはよく分かると思います.1–特異度の逆数が何故ゲノムサイズの上限だと考えられるかは,理論好きな人は考えて頂ければいいでしょう.アイデンティティの維持には特異性が大事なのは当たり前のことです.