【追記あり】20211002exPzDom

2021/10/02までのSARS-CoV-2のexPzDomによる解析をアップします.COVID-19重症者数のデータは2日分のデータが更新され次第追記します.

 

今回のPCR新規陽性者数の指標値の計算結果では生データから予測される通り,thresholdやexpected sumsの値は減少しています.先行指標のRe(s)は停滞気味です.同じく先行指標のE(l)は下降中で,第1波と第2波の間のレベルまで落ちてきています.ただ緊急自体宣言はもう解除されたので,このまま状況が大きく変化しなければ冬までには感染者数がまた増え出すような気はします.せめて第1波の前のレベルまでE(l)が下降すれば良いのですが.

 

メルクがCOVID-19での入院・死亡リスクを半分程度に軽減する経口薬「モルヌピラビル」の緊急使用許可を申請したようです.

 

https://www.cnn.co.jp/business/35177462.html

 

COVID-19に対する真面な治療薬がようやく出て来たようです.今後,治療薬のレパートリーを増やすことが求められます.異なる原理の治療薬のレパートリーが増えると,複数の対処法が出ると同時に併用によりウイルスの増殖を乗数的に抑えてウイルスの変異率の逆数より遙かに低く増殖率を抑えることが出来ます.HIVに対する多剤併用療法やCOVID-19での抗体カクテル療法が求められる第一の理由ですね.

 

モルヌピラビルはウイルスに対する変異を誘導するのが作用機序なので,ウイルスの進化を促進するのではないかという方がいます.正確には具体的な実験をしないといけないので分かりませんが,こういう場合は薬の効果を少なくとも2つに分けて考慮しないといけません.即ち,変異原としての効果と,ウイルスに対する「致死」効果です.実は,以前担当していた大学の学部生の学生実習で,似たような題材を大腸菌栄養要求性に対する復帰変異株の実験で扱ったことがあります.その実験では紫外線を変異原にするのですが,野生株では紫外線照射量を上げて行くと,低線量では突然変異率は上がりますが,その後は下がって何も出て来なくなります.紫外線が変異原なのでその照射量が上がれば上がるほど突然変異率は上がりますが,その一方で生存出来る大腸菌もどんどん少なくなって来るので,低線量時をピークにそれ以上の照射量では減少してついには見えなくなる訳です.それでDNA修復遺伝子の変異株では生存率低下の効果が大きくなってピークはさらに低線量側に寄りますし,突然変異の主要な原因となる損傷乗越えDNAポリメラーゼの変異株では突然変異株自体がほとんど見られなくなります(つまり,生物的要因が無ければそもそも変異がほとんど起こりません).学生さんは「紫外線が変異を誘導する」ということだけを理解してDNA修復系の役割がすっ飛んでいることがよくあって,山形のピークがでて来ても,これは実験が失敗だったりプレートを取り違えたりで,線量に沿って単調増加が正しいとよく言うのですが,せめて2つのファクターを同時に考慮することは確認して欲しいというのが趣旨の実習でした.1つのことだけしか考えられなくなって予測を外すというのはよくあることで,複雑な世界から単純な原理を抽出するのは賢いことだとは言え,それに過剰に頼って考慮するべき大きな寄与をするファクターを無視してはいけません.

 

具体的なデータが無ければモルヌピラビルの場合は分かりませんが,増殖を10-3くらいに抑えている状態ではウイルスに対する「致死」率では低容量ではなく過剰に作用していると考えるのが普通でしょう.製薬会社ならそれくらいは考えていると見るのが普通です.

 

また,モルヌピラビルさえあれば何もかも上手く行くとは誰も言っていなくて,この薬の当面の目標は治療薬のレパートリーを増やすことにあります.先程述べた通り,異なる原理の治療薬のレパートリーが増えると,複数の対処法が出ると同時に併用によりウイルスの増殖を乗数的に抑えてウイルスの変異率の逆数より遙かに低く増殖率を抑えることが出来ます.体内に1粒子も変異ウイルスが出ない換算にする訳ですね.その為にレパートリーを増やすことが,当面の目標な訳です.ワクチンによる抗体はワクチンがウイルスに直接作用するのではなく免疫システムに頼る分,免疫能の低下など作用機序的には融通が効かない面もありますし,体質的に接種出来ない人もいます.だから予防や治療の選択肢は複数あるべきなのです.ワクチンだけでCOVID-19に対応出来ている,という人はちょっとどう仕様も無いですね.御大も呆れていました.

 

【追記】昨日は追記を忘れていました.COVID-19重症者数の方は生データやthreshold,expected sumsに関しては減少して,まだ高レベルの大阪府以外は第1波のピーク時のレベルまで戻って来ています.しかし,今までの谷のレベルと比較してまだまだ下げ足りません.一方で,先行指標のRe(s)はまだ全国的に完全に緩増モードです.同じく先行指標のE(l)は停滞気味です.先行指標の見通しがまだ暗いので,油断は出来ません.

 

PCR新規陽性者数

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COVID-19重症者数

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