伊豆の山々

【追記】三蓋山に登った日付が間違っていたので訂正しました.順番も差し替えています.

 

2022/9/21にNHKの番組『にっぽん百低山』で天城山万三郎岳)が紹介されたので,伊豆で細胞性粘菌を採集していた頃の登山の記録を3つ挙げておきます.三蓋山近辺では9ヶ月にわたり定点調査も行いました.

 

***

 

昨日2011年10月1日は三蓋山と猫越(ねっこ)岳に登ってきました。川端康成伊豆の踊子』で有名な旧天城トンネルの辺りから天城峠に登って伊豆山稜線歩道を西に進み、ハリスや吉田松陰滝沢馬琴も越えた旧天城峠を経て三蓋山へ、そこからつげ峠、猫越峠を経て猫越岳へ進み、仁科峠に下るコースです。全長は14kmほどあるちょっとした距離のトレッキングです。

旧天城トンネル。今回は先を急ぐので通り抜けしませんでしたが、万二郎岳・万三郎岳に登った帰りには時間があれば立ち寄って通り抜けてみようと思います。『伊豆の踊子』はまだ読んだことがないので、読んでみようと思います。

天城峠近辺の植生はサワラChamaecyparis pisifera・スギCryptomeria japonica・ヒノキChamaecyparis obtusaの植林にモミAbies firma・ツガTsuga sieboldii・イヌガヤCephalotaxus harringtonia・イロハモミジAcer palmatum・ハウチワカエデAcer japonicumウラジロガシQuercus salicinia、アカガシQuercus acuta、ヤブニッケイCinnamomum daphnoidesが混じったもの。天城峠に登るとコハウチワカエデAcer sieboldianumの巨木が迎えてくれます。

台風のため山が荒れているなとは思っていたのですが、三蓋山近辺で道が崩落したとのこと。この時は折角来たので、行ける所まで行って引き返そうと思っていました。

歩道から見える富士方面。富士山が雲の向こう側に少しだけ見えているのが分かりますか?

見事なカイメンタケPhaeolus schweinitziiです。

こちらはツノホコリCeratiomyxa fruticulosa

根こそぎ倒れた倒木が至る所にあります。

アカシデCarpinus laxiflora・イヌシデCarpinus tschonoskiiの群落を抜けて暫くすると旧天城峠に到着。由緒ある場所ですが、後ろに赤い木肌のヒメシャラStewartia monadelphaが結構生えているのが分かると思います。

三蓋山に向かう途中、年配のご夫婦が前から来られて崩落地をトラバースされたとのことでした。本当は崩落地まで行って引き返すつもりだったのですが、年配のご夫婦がトラバースされて私がしない訳にはいかないので、崩落地で手を使って60°ほどの斜面を直登し、ピークまで上がってから適当な尾根を下ることにしました。写真はトラバース成功後に振り返って撮った写真。数十mにわたって道が跡形もなく崩れ落ちています。トラバース中は危険なのでカメラはしまっていたため、写真はありません。下りは以前の綾に行った時の方が危険でしたが、登りは確かに少し苦労しました。

三蓋山に近付くとアセビPieris japonicaが生えてきます。原生林らしくなってきます。

これは見事なキゴケStereocaulon exutum(地衣類)です。

ブナFagus crenataの巨木が満ち満ちてきました。

三蓋山頂上。

時間的に先を急いだ方が良さそうなので次はつげ峠。

ヤマガラParus variusはたくさん居ましたが、皆警戒声を出していました。

こんな大きな岩も落ちています。

アマギシャクナゲRhododendron degronianum var. amagianumも折れてしまっています。

猫越峠まで来ると、辺りはアセビの風衝林に。風が強いのでしょう。

猫越岳山頂。猫越岳は250万年前に噴火した海底火山だったらしいです。

アセビの朽木に変形菌博物館が。これはシロサカズキホコリCraterium leucocephalum

こちらは右側のピントの合っているのがツノホコリ、真中のはムシホコリErionema aureum

こちらはオオフウセンホコリBadhamia macrocarpa

倒壊したブナにはアセビやアリドオシDamnacanthus indicusの着生が見られます。湿度が高いのでしょう。

猫越火口湖。珍しいコケや藻類が居るとのことですが、私はそれらには詳しくないので分かりません。ただ250万年前から隔離された環境を考えると、そうなのかも知れません。

後藤山。仁科峠まであと少しです。

仁科峠近辺はアズマザサArundinaria ramosaで覆われています。

仁科峠の岩に留まるハシブトガラスCorvus macrorhynchos

終点の仁科峠。。。と思いきや、ガイドブックに書いてあったタクシーを呼ぶにもSoftBankの携帯では電波が安定せず交信できない模様。仕方がないので持越温泉まで14kmに加えさらに6kmほどを歩くことにしました。持越温泉まで来ると丁度バスが停まっているところで、慌てて乗り込みました。旧天城トンネルをくぐっていれば間に合わなかったでしょうので、虫の知らせは当たるものです。

 

生き物はこの他に植物ではスダジイCastanopsis sieboldii・ツブラジイCastanopsis cuspidata・アラカシQuercus glaucaクヌギQuercus acutissiamトチノキAesculus turbinataヤマアジサイHydrangea serrata、菌類ではザイモクタケOxyporus ravidus・シロカイメンタケPiptoporus soloniensis・カワラタケTrametus versicolor・ウスバタIrpex lacteus、変形菌ではホネホコリDiderma effusum・バークレイホネホコリDiderma platycarpum var. berkeleyanum、鳥ではモズLanius bucephalus・カケスGarrulus glandarius・ヒガラParus aterシジュウカラParus majorアカゲラPicoides majorコゲラPicoides kizuki・ウグイスCettia diphoneミソサザイTroglodytes troglodytesヒヨドリHypsipetes amaurotis、哺乳類の鳴き声ではニホンジカCervus nipponニホンザルMacaca fuscataを確認しました。変形菌も鳥も個体数が多そうでしたので、豊かな森なのかも知れません。ライントランセクトをすると楽しそうです。

 

【追記】栄養塩濃度で計測するとここはやはり豊かな森のようです。サンプリングの結果が出るのが楽しみです。

 

***

 

2011年10月29日は快晴だったので天城山へ行って来ました。17kmを5時間半ほど歩くのですが、始発のバスでも10:40からのトレッキングで、土のサンプリングにも一か所で10分はかかるので急がなくてはなりません。

登山口ではリンドウGentiana scabra var. buergeriが。

アマギシャクナゲRhododendron degronianum var. amagianumの幼樹が山の中腹くらいでも生えています。

もう紅葉が始まっています。

ヒメシャラStewartia monadelphaの林を抜けていきます。

イロハモミジAcer palmatumの絨毯があります。

万二郎岳までは1時間もかかりません。

馬の背が見えます。

相模灘が綺麗に見えます。

風衝林のアセビPieris japonicaのトンネルを抜けていきます。

アセビの林を抜けると、ブナFagus crenataが多くなってきます。

カイガラタケLenzites betulinusがありました。

万三郎岳手前にはブナとアマギシャクナゲの群生地があります。

万三郎岳です。

富士山がはっきりと見えます。

ブナの原生林が広く分布しています。

アシグロタケPolyporus badiusもありました。

これはアカコブタケの一種でしょう。

しばらく天気が続いていたので変形菌を見かけないと思っていたら、アカコブタケの隣に発見しました。漫画『蟲師』に出てきそうな物体ですが、ハイイロフクロホコリPhysarum bivalveです。ここだけは朽木が沢の流れの近くで湿っていたからでしょう。

ハカワラタケTrichaptum biformeは至る所に生えています。

こうなってしまうと道なのか何だか分かりません。

八丁池に着きました。ここは車でも来られる場所です。

オドタケClitocybula esculentaが生えていました。

旧天城トンネルに戻ってきました。

トンネルを抜けると―

少し紅葉が始まっているかのような風景です。

トンネルを南側から撮った写真です。

 

植物は他にヒノキChamaecyparis obtusa、スギCryptomeria japonicaヤマボウシBenthamidia japonicaコアジサイHydrangea hirta、ニシキウツギWeigela decoraノリウツギHydrangea paniculata、アカシデCarpinus laxiflora、イヌシデCarpinus tschonoskii、オオモミジAcer amoenum、コハウチワカエデAcer sieboldianum、イタヤカエデAcer mono var. marmoratum f. dissectumトチノキAesculus turbinata、アマギツツジRhododendron amagianumドウダンツツジEnkianthus perulatus、アリドオシDamnachantus indicus、アズマザサArundinaria ramosaノアザミCirsium japonicumヒヨドリバナEupatorium chinense、鳥はヒガラParus ater、コガラParus montanusシジュウカラParus majorヤマガラParus variusコゲラPicoides kizukiアカゲラPicoides majorヒヨドリHypsipetes amaurotis、哺乳類はニホンザルMacaca fuscataニホンジカCervus nipponを確認しました。この日はこのあとサンプルの処理の他、サザンハイブリダイゼーションの検出も行ったので長い一日となりました。

 

***

 

2011年11月3日の文化の日は皮子平に行って来ました。火口跡とブナ・ヒメシャラの原生林が広がる地域ですが、林道を3時間歩いた後でさらに暫く山道を歩かないと辿りつけないので穴場になっています。

大見川沿いは紅葉で綺麗になってきました。

カワガラスCinclus pallasiiが居るのが分かるでしょうか。

筏場はワサビの里として有名です。

御礼杉は天城一帯にあります。

モミAbies firmaも生えていましたが、学術参考保護林らしいです。

天城林道入口。この写真は後で重要な意味を持ってきます。

上井屋歩道入口からは道なのかどうかよく分からない60°ほどの斜面を登っていきます。火口近辺につくと北側はスギCriptomeria japonicaやヒノキChamaecyparis obtusa、サワラChamaecyparis pisiferaの植林ですが―

南側はブナFagus crenataやヒメシャラStewartia monadelphaの原生林になります。歩道が窪地に出た地点を境に保護されているかされていないかで植生が大きく異なります。

3000年前の火口にはドウダンツツジEnkianthus perulatusアセビPieris japonicaが。そう言えば林道でも溶岩や軽石がありました。

ブナの白肌とカエデ科の紅葉が綺麗です。

原生林はこんな感じ。ブナシメジHypsizigus marmoreusも生えていました。

天城一の大ブナです。

倒木がいっぱいありました。

クジラタケTrametes orientalisも生えていました。

帰りの戸塚歩道を歩いていると、台風の影響でスギの葉が辺り一面を覆い、何が何だか分からなくなったので道をロストしました。尾根や谷があれば地形から現在地は分かりやすくなるのですが、登り尾でもそうだったように平らな場所では方位と何分歩いたかだけが頼りになるため、道を見失いがちです。仕方がないので北に直行するとどう考えても天城林道にしか思えない場所にぶつかりました。葉に埋もれた戸塚歩道よりは大分回り道になりますが、仕方がないのでここを通ることにしました。林道からは富士山がよく見えました。

先程出てきた天城林道入口。危ない、危ない。帰りに戸塚歩道の出口の部分を覗いてみましたが、どこが出口なのかよく分かりません。戸塚歩道の方から入って上井屋歩道へ抜ける向きでは戸塚歩道で道を見失ってどこに行けばいいのかよく分からなくなる可能性が高いので、急斜面でも上井屋歩道から入った方がいいのでしょう。戸塚歩道は南北に真っすぐ伸びているので、皮子平から北に直行すれば何れかの林道にはぶち当たりますが、その逆ではどこに出るのか見当がつきにくいからです。帰りの県道沿いでは崩落地がミシミシと音を立てていました。

 

植物は他にネズコThuja standishii・カキノキDiospyros kakiタチバナCitrus tachibanaヤブツバキCamellia japonica・アラカシQuercus glauca・アカガシQuercus acutaウラジロガシQuercus salicinia・クリCastanea crenataクスノキCinnamomum camphoraユズリハDaphniphyllum macropodumアカメガシワMallotus japonicus・アマギシャクナゲRhododendron degronianum var. amagianumケヤキZelkova serrata・イロハモミジAcer palmatum・オオモミジAcer amoenum・ハウチワカエデAcer japonicum・ウリハダカエデAcer rufinerve・イタヤカエデAcer mono var. marmoratum f. dissectum・アブラギリAleurites cordataコアジサイHydrangea hirtaヤマアジサイHydrangea serrataヤマボウシBenthamidia japonicaトチノキAesculus turbinata・アズマザサArundinaria ramosaノアザミCirsium japonicum、変形菌はツノホコリCeratiomyxa fruticulosa・シロススホコリFuligo candida・バークレイホネホコリDiderma platycarpum var. berkleyanum、鳥はハクセキレイMotacilla albaヤマガラParus varius・ヒガラParus aterコゲラPicoides kizuki・カケスGarrulus glandariusヒヨドリHypsipetes amaurotisを確認しました。

 

伊豆の有名な山は長九郎山以外に粗方行ったので、今度からはメッシュを埋めるサンプリングが必要かどうかを解析しながら、相模や駿河の山にも行ってみたいです。