すずめの戸締まり

新海誠監督の新作アニメ映画『すずめの戸締まり』を観たが,面白さは微妙だった.意志のない天災を人の記憶の重みが薄れた結果として引き起こされるものとして描いたが,そこにギャップがあり過ぎていまいち世界観を理解しにくかった.それが設定としてはあっても,ドラマの本筋のドタバタと上手く絡み合ってはいなかた.同じファンタジーの世界でも,例えばTolkienのMiddle Earthの世界では最終的には(意志のあるところが違うが)神が引き起こした天災でヒトの王国が滅んだりもするが,そこに至る背景,MorgothやSauronやElfを拷問して生まれたOrcといった存在が何故生まれるのかには哲学的な洞察がある.それは,自己中心的な欲望が肥大化した結晶としての帝国主義と二度の世界大戦を経験した反省から来るものだった.『すずめの戸締まり』には,そこまで深い世界観を感じられなかった.天災と自己中心性とは何の関係もなく,別の新しい世界観が必要だが,それを呈示するところまでは行っていなかった.勿論,映画版の “The Lord of the Rings” でもTolkienの原作ほどの世界観を反映出来ているかと言えば疑問で,それは長い小説という形態でないと実現は難しいものかも知れない.でももう少し頑張って欲しかったところで,そこの設定が宙ぶらりんになっている気がした.アニメの絵自体は非常によく出来ていたし,惜しいところだった.