スワンの恋

プルーストスワンの恋』に関して簡単にまとめました.

 

あらすじ

作家志望の「私」の精神的な遍歴を辿る物語で,『失われた時を求めて』の第一篇第二部として全体の雛形を成す.パリの社交界の一角を成すヴェルデュラン夫妻の一見華やかだが如何わしさもある夜会で,パリのサロンのピンからキリまで体験したスワンは裏社交界の女であるオデットに興味を抱く.彼女はヴェルデュラン家の夜会に充ちている虚栄と嘘に染まっているが,美術や詩を愛し打算を軽蔑する人であることを表明さえすればそれがエリートだと考えている.その為,スワンのような人物を内心軽蔑している.スワンの恋には根拠,実体がなく,自分の想像力で暴走した思い込み,征服欲が働いている.それが病のような恋愛となり,嫉妬ともなる.その「失われた恋」が一連の事件による「失われた時」とも繋がり,スワンの最後の発言に繋がる.そして「もしかすると虚無こそが真実であり,われわれの夢はなにもかも存在しないかもしれない.しかしそうだとすると,われわれの夢との関連において存在するこのような楽節や概念もまた,やはり無と考えるべきだと感じられる.われわれは死滅するだろう.だがわれわれはこのような崇高な囚われの存在を人質にしており,この囚われの存在もわれわれと運命をともにするだろう.このような存在とともに死ぬのであれば,死もそれほど辛くはなく,それほど不名誉なことでもなく,もしかするとそれほど確かなことでないのかもしれない.」に全篇のテーマが現れている.

 

社交界

パリの社交界の一角を成すヴェルデュラン夫妻の一見華やかだが如何わしさもある夜会では,上流サロンに対して敵愾心を滑稽な形で表している.虚栄,滑稽でグロテスク,悲壮な人間の実相が現れている.

 

芸術作品の描写

ヴェルデュラン家の夜会の常連客ではピアニストが演奏するヴァントゥイユの「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」は,ヴェルデュラン夫人が大げさな反応をして信者たちの賛辞を引き出すだしにされる.それはスワンにとってはかつての感動の源泉でオデットへの恋心を増すものとなる.また,オデットの容姿がボッティチェリの絵画を思い起こさせ,スワンの思い込みは確信的なものとなる.これらは,芸術が時を超えて人に働きかける力であることを表している.

 

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舞台芸術の魅力」の第9回目の講義では,現代演劇は不条理な現実を異化的に描いていることに言及されていた.毎日が不条理な社会の連続なので,これは人間の活動として適確な言葉だと思う.