ゴリオ爺さん

バルザックゴリオ爺さん』に関して簡単にまとめました.

 

小説としての面白さ

ゴリオ爺さん』の面白さは個人と環境,社会を結びつけて時代の全貌を描きだそうとするリアリズムにある.さらに,そうした素材を想像で変形し,神話のような象徴的表現も加えられている.とりわけ,「父」の姿が重層的に描かれ,フランス革命以降のフランス社会が如実に描き出されている.即ち,娘二人を社交界に送り出すも彼女らからお金をせびられるだけで愛情を得られないゴリオ,それとは対照的に娘を見捨てているヴィクトリーヌの父親,血縁とは関係なくラスティニャックの父親役をかってでる脱獄徒刑囚ヴォートランの三者の描写である.

 

ゴリオ爺さんの変化と小説のテーマ

ゴリオ爺さんは裕福な下宿人が住む二階の三部屋から家賃の安い三階,さらには屋根裏へと移り,経済的に困窮していく過程が描かれている.同じ下宿の間借り人からは女遊びのためと邪推されるが,ゴリオは娘たちが悪く言われないように愚鈍な表情で耐える.ただしラスティニャックはその内に秘めたる力強い意志を銀の加工の現場から感じ取る.「父性のキリスト」像がここに伺える.また,それはヴォートランの描写と相まって常軌を逸した倒錯性も示している.ゴリオは臨終の間際になってようやく自らの人生の真実を自覚するが,娘たちへの甘い気持ちからは完全に解き放たれることはなく死を迎える.これはフランス革命による法的な父権の消失を体現している.

 

お金と運命

ヴィクトリーヌは父親から年600フランを受け取るのみで,これは現代の60万円相当なので生活は困窮している(当時のパリでの生活で最低限必要な額)が,ゴリオ爺さんはかつては財を成したにも関わらず1日40スー(現代の400円相当)で暮らすようになり,これは年収でも14万6千円なので極貧の生活に喘ぐ事になる.一方のゴリオの娘たちは年収5万フランであり,現代の5000万円相当なのにまだ金をゴリオにせびっている.