2009年新型インフルエンザ

2009年新型インフルエンザ(A(H1N1)pdm09)のパンデミック時の日本の対応の話が纏められていました.

 

https://www.cas.go.jp/jp/influenza/kako_03.html

 

https://www.cas.go.jp/jp/influenza/kako_04.html

 

今回のCOVID-19の話とは,原因となるSARS-CoV-2とA(H1N1)pdm09では臨床所見やエコロジーも違えば致死率は前者が高く,感染力は後者が高い,ワクチンの話は前者には関係ないというように,多くの異なる点があることを前提として捉えて下さい.前半の最後の方に,

 

「なお、6月12日には、国内外の状況から秋冬に向けていつ全国的かつ大規模な患者の増加を見てもおかしくなく、感染拡大防止措置による封じ込め対応は既に困難な状況であると考えられました。そこで、「運用指針」を改訂し、地域のグループ分けを止め、地域の実情に応じて対応可能とした上で、患者の入院措置や集団発生以外の事例の積極的疫学調査等の感染拡大防止措置を中止しました。」

 

とあります.このレポートでは実際に取られた政府の対応は,現在のCOVID-19への対応と比較してマイルドであるような気がしますが,当時はそれでもやり過ぎだったのではないかという意見があったそうです.感染症対策は取るに越したことはありませんが,経済活動上の事情もあります.A(H1N1)pdm09の感染の伝播の様子は今回と同じようなPCR検査が仮に出来たとしても,余りにもよく伝播する為に感染経路をしっかりと捉えることが出来なかったでしょう.致死率は(今回のCOVID-19よりも低く)日本では運よく大したことはなかったそうですが,伝播の様子だけを見れば今回どころの騒ぎではなかったと思います.実際の所は,A(H1N1)pdm09は核酸塩基配列を調べずに(現在SARS-CoV-2で行われている)PCRのバンド確認だけによる簡易検査で他のインフルエンザウイルスと区別をすることが難しく,他の季節性インフルエンザウイルスに埋没する形になった為にPCR検査を確定検査として行うのは無理だったそうです.その為,現在でも感染者数すら推計値で,どれだけ脅威のあるウイルスだったのかも推測するしかありません.今回のSARS-CoV-2は他のコロナウイルス と明確に異なる領域があり,また日本ではSARS-CoVやMERS-CoVが入っていないこともあって区別はしやすい筈です.バンドで出来るPCR検査というのはそういうものです.PCR検査をしない方向にするとA(H1N1)pdm09と同じく未知の要素が多い方向になりますが,そうするかどうかです.

 

また,A(H1N1)pdm09のパンデミック時の「医療崩壊」としては後半に

 

「その後は急速に国内でも感染が拡大し、特に沖縄県では、一部の医療機関において救急外来が混雑したり、重症患者の受け入れが重なったり等の一時的な混乱が認められました。ただし、沖縄県庁、医療関係団体、各医療機関などの連携により、地域中核医療機関を周辺の診療所等が支える対策が取られたこと、また協力を呼びかけられた市民がこれに応えたことで乗り越えることができました。」

 

という記述がありますが,COVID-19の方では少なくとも私の周りの病院や診療所では患者さんの数が普段よりも少なくガラガラ,医療崩壊の兆候は今の所全くないということです.この点に関してはコントロールが充分に効いていそうです.TwitterではPCRは昔の技術なので最早重要ではないとか,料理は20万年以上前からある古い技術なので最早重要ではないというのと同レベルの非科学的な言説など,別世界の言論が飛び交っていますので,あまり気にしなくてもいいと思います.デフレ時にインフレの心配をしてデフレを更に加速させる政策を取るとか,類似案件はいろいろありますね.

 

過去の対応から今回との相似点と相違点を抜き出して議論するのは,当たり前の話です.