PCRのセッティング

SARS-CoV-2のPCRでfalse positiveが出て来るというPCR産物の電気泳動の写真を見ましたが,mockであるものにバンドが出ています.Mockとして鋳型DNAの溶液でなくただの超純水を使ったのなら,バンドが出る筈がないのでそれはPCRそのものよりもサンプル間のコンタミという,実験手技の問題の可能性が高いです.Mockとしてウイルス粒子を含まないと思われるサンプルからの調整物を使ったのなら,そのサンプルの大元にウイルスが絶対に存在していないということを証明しなければなりません.それは出来ないので,false positiveとは断定出来ません.情報のない時は堂々巡りになるのですね.

 

あと,PCRがかからないという報告の中に短いdenature時間でextension時間まで低温にしたshuttle PCRをしているものがありました.Denature時間が短いのもかなりクリティカルに効く可能性がありますし,それよりも低温shuttle PCRという攻めた条件下では時短にはなりますが,丁寧なPCRではないのでそれではPCR産物がきちんと増幅されない可能性が高いです.普通の3 step PCRで上手く行っている時にshuttleに挑戦するのはいいのですが,上手く行かない時にその時のPCRの条件が低温shuttle PCRではお話になりません.条件を公開しているところでは,PCR条件に明らかに不備があるものがあります.また,PCRサイクル数は普通,動かすことのない条件です.

 

G/Cバランスや配列のランダム性に優れ,高温で反応出来るプライマーをきちんとデザインし(これは非常に重要です),denature時間(特に一番最初のdenature時間)は充分に長くとり,プライマーに合わせた適切なannealing temperatureを取り(これも非常に重要です.PCRの成否は主にプライマーとannealing temperatureに依存します. 2°C違えば様子が全く変わります.),extensionはPCR産物の長さに合わせて時間を調整するのみ,さらにBuffer条件を変える(これもいろいろ出来て,プライマーとannealing temperatureの次に重要),クローニングでなくスクリーニングのPCRなら大抵はこれで上手く行きます.