SARS-CoV-2の抗体による疫学調査

アメリカ合衆国ではSARS-CoV-2の抗体に関して疫学調査を試験的に開始したそうですね.ドイツでは既に行っていますが,フランスでは慎重論があるそうです.

 

患者さんにとってはご自分の検査結果が全てである訳ですから,COVID-19の確定診断など正確性が求められている時に抗体検査を持ち出すのは確かに困ります.ですが,COVID-19に感染した方がどれくらいおられるのか,短期間でも免疫を持っている方がどれくらいおられるのかをごく大雑把に把握するなど,今後のことを考えると,数値の振れ幅の評価込みで議論可能な疫学調査はするべきだと思います.今後の予測をするにも,当てずっぽうな数値をテキトーな数理モデルに放り込むのではいけないので,それよりは少しでも信頼性が高い数値を求めておくことは必要でしょう.単なるオーダー程度の評価なら,診断用ではなく研究用の抗体検査キットは機能すると思います.

 

蛇足として,先日紹介したNature Medicine誌に発表された論文でのCOVID-19の発症時もしくはその直前にSARS-CoV-2の感染能が一番高くなるらしいということですが,細胞が溶け出す前にウイルスの生産能が一番高くなるということ自体はウイルスを扱っている人にとっては常識です.私も大腸菌に感染するP1ファージの回収(遺伝子工学のツールとして使います)は,大腸菌が溶け出す直前の頃合いを見計らって回収していました.細胞が死に始めるとウイルス生産の場が崩壊し出す訳ですから,これも半ば当たり前のことです.