環境RNA?

環境からRT-PCRSARS-CoV-2が検出されても,それは失活したウイルスで感染能のない場合がある,という人々がいます.厳密に言えばその可能性はゼロではありません.ですが,通常は「環境DNA」とは言っても「環境RNA」と言う人は少なく,データもバラついて不安定であることから分かるように,RNAはDNAのように長時間安定ではなく,環境中にも各種RNaseは大量に存在する為直ぐに分解されることが多いです.実験室でもDNA実験の際にDNase対策はほとんどしませんが,RNA実験の際にはRNaseを失活させる洗浄剤を使うなど,RNase対策は本当にいろいろなことをします.その為,環境サンプルからRT-PCRRNA genomeが検出されればほとんどの場合,それは生きているウイルスと見るのが普通です.

 

では環境ではなくヒトの体内からRT-PCRSARS-CoV-2が検出された場合はどうでしょう.この場合,RNAは生体内では元々不安定な上,ウイルスが失活していればヒト体内の酵素が直ちに外来性RNAを認識してRNAが分解されるので,体内サンプルからのシグナルが失活したウイルスであることはまずありません.ウイルス側が外来性RNAへの攻撃を回避する方法はたくさんあります.

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3123725/pdf/main.pdf

 

RT-PCRで失活したウイルスのRNAを検出する可能性は,現時点で考えなくて良いでしょう.