「「数学」が進化の法則を制御していたと判明!」?

ナゾロジーという曰くありげなサイトに,「「数学」が進化の法則を制御していたと判明!」という,意味不明のタイトルの記事が出ていました.

 

nazology.net

 

進化生物学では元々進化の数理的な解析が主流なので,これでは何が目新しいのかさっぱり分かりませんし,当たり前なので意味不明だということです.ただもう少し詳しい解説だと「「ある純粋な数学」が進化の法則を制御し突然変異に対する防御力を設定していました」となっています.「防御力を設定」という日本語の用法が正しいのかどうか分かりませんが,突然変異に関する研究だということで,少し分かるようになります.それで記事を見てみると,

 

「私たち生物の進化は純粋な数学的な仕組みに基づいて繰り返されていることが示されました」

 

「(突然変異の)堅牢性の最大値は「目立った影響をおよぼす変異の割合(中立突然変異でない割合)」の対数(log)に比例するという、極めて簡素な数式で描けることが判明したのです」

 

「堅牢性の最大値がフラクタルな特性を持つ」

 

などとあります.2番目の引用は,単なるエントロピー最大化の法則なので物理学者や数理生物学者には当たり前のことで,記事を書いている人にとっては「新たな発見」なのかも知れませんが,特筆すべきことではありません.しかしそれにフラクタルが絡んでくるのは私が10年前から書いているプレプリント

 

https://doi.org/10.48550/arXiv.1603.00959

 

に似ているので,元論文を読んでみました.

 

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsif.2023.0169

 

すると,進化集団の突然変異に対する頑健性の最大値が,フラクタルと関わりがあり,生物の階層性を超えた保存量だということです.遺伝型をBricklayer’s graphで記述し,RNAやタンパク質の構造形成のモデルで計算したものです.

 

私の考えたボックス(フラクタル)次元の最大値Re(s)は頑健性の最大値に関係しますし,リーマンのゼータ関数自身も出てきますし,リーマン・フルヴィッツの公式に相当するものも出てきます.この論文が通るのなら,数理的に同様でもっといろいろやっている私のプレプリントが通らない理由はよく分かりません.この論文は,特に集団の突然変異に対する頑健性,つまり「種」に相当するものを特に頑健性に注目して私のプレプリントよりもう少し詳しくみたものになります.でもホモロジーコホモロジーも短完全系列も出てきませんし,なぜ頑健性に最大値があるのかは謎になっています(私の論文では数理的に必然の帰結になっています).私が行った他の多くの解析も出てきません.

 

ただ,私のプレプリントが通る下地も10年経って少しずつ形成されてきているのかも知れません.「生物の学問にフラクタルは登場しない」という,当時から言っても意味不明な言動をするレフェリーに当たらないことを願うばかりです.