宇宙の誕生と進化

宇宙の誕生と進化に関わることについて簡単にまとめました.

 

宇宙の将来

天文学の目的は元々宇宙をくまなく観測してそれを矛盾なく説明できる理論モデルを構築し,宇宙を理解することである.宇宙の未来予想図としては主に「ビッグ・フリーズ」「ビッグ・リップ」「ビッグ・クランチ」「サイクリック宇宙」の4つがある.

 「ビッグ・フリーズ」は宇宙膨張と共に限りなく冷たい宇宙になっていくシナリオで,最終的には絶対零度の世界になる.宇宙は現在加速膨張のフェーズだが,この膨張が止まらない限りこのシナリオは避けられない.

 「ビッグ・リップ」は2003年にロバート・コールドウェルらによって提唱された膨張する宇宙の運命の1つで,破壊的な終焉となる.具体的にはビッグ・フリーズに至る前の約350億年後に宇宙がダークエネルギーによって木っ端微塵に破壊されるということである.その10億年前から銀河団が重力で支えられなくなり消滅し,6000万年前には銀河系も重力で支えられなくなり破壊され,3ヶ月前には太陽系がバラバラになり,30分前には地球も重力と電磁気力がダークエネルギーの負の圧力で破壊されて壊れる.1秒前には核力もダークエネルギーの負の圧力で破壊されて原子が壊れ,そして宇宙が消滅する.

 「ビッグ・クランチ」は何らかの原因で宇宙が膨張から収縮に転じやがて潰れるというシナリオである.

 「サイクリック宇宙」は膨張と収縮を繰り返すシナリオで,ビッグ・クランチの際には反発であるビッグ・バウンスが起こり,また宇宙は膨張を始める.この場合は宇宙は永遠に続く.

 ビッグバンが始まってから60億年経過するまではこの宇宙は確かに減速膨張していたが,これは宇宙に物質が十分あることによる重力によるものである.重力エネルギーが熱エネルギーに勝れば宇宙は収縮に転じるが,膨張に伴うダークエネルギーの増加で60億年前から宇宙は加速膨張に転じている.これはダークエネルギーが物質に転換しない限りは宇宙が収縮には転じないということである.ビッグ・クランチとサイクリック宇宙はダークエネルギーの正体が不明なので詳細も不明で,ビッグ・リップも積極的な理由は今のところない.

ビッグ・フリーズについてもう少し詳しく考えると,50億年後には太陽が陽子の枯渇により寿命を迎え,赤色巨星へと進化して行き内惑星はその外層に飲み込まれる.銀河系とアンドロメダ銀河は合体し,巨大な楕円銀河になる.1000億年後には銀河の合体がより大規模なスケールで起き,局所銀河群全体が大きな銀河になる.そして隣の銀河の相対速度が光速を超え,光では自分のいる銀河しか観測できなくなるレッド・アウトが起こる.100兆年後には全ての恒星が寿命を迎え,巨大銀河という重力の入れ物には恒星がなく暗黒時代になる.1034年後には陽子が崩壊し,超大質量ブラックホールが残る.10100年後には宇宙はほぼ絶対零度になり,太陽質量の1兆倍以上のブラックホールのみが残る.ただし電磁波は存在している.

 

銀河の形態分類

銀河の形態とは可視光で見た星の分布である.分類としては円盤構造が卓越して渦状構造を示す円盤銀河,球状分布を示す楕円銀河,乱れた構造を示す不規則銀河に大別される.渦状銀河の中で顕著な非軸対象構造を持つものは棒渦状銀河と呼ばれる.このような分類は1936年にハッブルが提唱して以来のもので,ハッブルの音叉図として知られる.改訂ハッブル分類ではSc型よりさらに晩期型があり,棒状構造についての中間型であるSAB型,渦状構造内のリング型rやスパイラル型sもある.定量的には非対称度と中心集中度で評価できる.

 銀河における表面輝度の分布は銀河の形態をより定量的に記述できる.表面輝度とは天球面上の単位面積あたりの明るさであり,楕円銀河では半径の1/4乗に従う(ドゥ・ボークルール則).円盤銀河では指数関数的に変化する.このことで2つの銀河を定量的に区別できる. 1/n乗のn(セルシック指数)が4以上の場合の中心集中度の高い銀河もある.

 可視光域の銀河の色も銀河の形態分類の定量化に重要で,楕円銀河は赤く,円盤銀河はSa型からSd型,不規則型Imへと移行するに連れてBバンドとVバンドとの比,即ち色指数B-Vが青の側にシフトする.銀河内の星の種族による色のシフト,即ち青い若年齢層の大質量星の集団,赤い年老いた星の集団,星間ダストの多さによる赤色へのシフトがなどがあり,色と明るさには顕著な関係がある.楕円銀河は赤く,若い星による銀河は青く(青い雲),中間には緑の谷の銀河がある.

 これらの考えを元に,ニューラルネットワークによる形態分類も試みられている.

 

銀河の形態と環境

銀河の分布は様々な階層構造を示し,その階層構造と個々の銀河の性質との関わり合いとしての環境効果がある.階層構造としては銀河群,銀河団,超銀河団などがあり,銀河の置かれている場所が銀河の密集地なのか過疎地なのかが環境問題となる.過疎地では晩期型の円盤銀河が多く,密集地では早期型の楕円銀河が多くなる.この形態密度関係は1980年にドレスラーにより報告された.早期型は青く,晩期型銀河は赤いため,銀河どうしが合体するごとに色は赤くなる.

 銀河団には大量の高温プラズマがあり,それはダークマターが引きつけていると考えられる.銀河団重力レンズ効果も引き起こし,質量分布推定の鍵となる.銀河の密集地では銀河の衝突・合体などの銀河相互作用も起きる.高温プラズマは銀河団のメンバーの銀河によるガスの剥ぎ取りにも関わる.また,背後から一様に到来する宇宙マイクロ波背景放射の光子が銀河団に突入すると銀河団中の高温プラズマとの逆コンプトン効果による相互作用によりエネルギーが齎され,宇宙マイクロ波背景放射のスペクトルが銀河団方向で僅かに高温側に歪む.このため周囲の宇宙マイクロ波背景放射に対して差が生じ,周波数約217GHzを境に低周波側では暗く,高周波側では明るくなる.これはスニヤエフ・ゼルドビッチ効果という.

 

活動銀河核

銀河における主要なエネルギー放射は星だが,もう1つ重要なのは物質がブラックホールに落下していく際にその位置エネルギーを解放して輝く現象である.これが活動銀河核である.このような銀河核を有する銀河は活動銀河と呼ばれる.

可視光で空間的に非常にコンパクトな明るい中心核を持つ銀河を分光すると[N II], [O III], [Ne V]など電離度の高いイオンからの輝線や紫外線から可視光にかけての青い連続光成分が卓越している.その明るさに応じてセイファート銀河クェーサーと呼ばれる.許容線である水素の再結合線HαやHβ,紫外線のLyαなどで数千km/sから1万km/sにも及ぶ非常に広い線幅を示す活動銀河を1型セイファート銀河と呼び,それらが見られないものを2型セイファート銀河と呼ぶ.線幅の広いイオンからの輝線はブラックホールのごく近傍にあって高速で運動するプラズマの存在を反映していると考えられ,そのような電離ガスが存在する領域を広輝線領域と呼び,線幅の狭い輝線を出す領域は狭輝線領域と呼ぶ.1型と2型の違いをブラックホール近傍に存在する広輝線領域を非等方的に遮蔽する吸収体の存在と観測者の見込み角の違いで説明するモデルが活動銀河核の統一モデルである.ただし,トーラスとも呼ばれる幾何学的に厚みのある遮蔽物質の形状や構造,起源については課題が多くある.

波長が数cmから数十cmという電波でのサーベイ観測で観測される強い放射を示す活動銀河は電波銀河と呼ばれる.セイファート銀河の多くは円盤銀河や渦状銀河だが,電波銀河の多くは大質量の楕円銀河である.M87などがそうである.ブレーザーと呼ばれる極めて激しい時間変動を伴う活動銀河は電波ジェットを極方向から覗き込むケースだと考えられている.セイファート銀河クェーサー銀河の電波放射は一般に弱いが,強い電波放射を伴うものを強電波活動銀河核を持つという.こうした電波活動性の多様性を理解する鍵はブラックホールが持つ物理量であるスピンにあるのではないかと考えられているが,詳細は不明である.

 

銀河と超大質量ブラックホールの共進化

ブラックホール質量を,そのブラックホールが存在している銀河(円盤銀河の場合はそのバルジ)の質量と比較すると,幾つかの例外はあるものの,相関関係が認められた.ブラックホールが銀河の大きさと比較して10桁以上小さいことを考慮すると,これは驚くべきことである.こうしたスケーリング則は銀河の成長とブラックホールの成長との間に何らかの関係があって共進化していることを暗示している.それに関する最も有力な仮説が成長するブラックホールが放出するエネルギーにより銀河の成長が阻害されて調節するという仮説である.これは活動銀河核からのフィードバックと呼ばれている.銀河の星質量関数とダークマターの質量関数との比較からも,星質量関数には質量が大きいところに鋭いカットオフがあるが,ダークマターの質量関数はそうではない.これは質量が軽い側では超新星爆発による星生成のブレーキによるものだと考えられる.さらに,質量が重い側では活動銀河核からの負のフィードバックが理論的にも要請される.これらにより活動銀河核からのフィードバック仮説はより有力となる.観測サンプルの劇的な拡大と統計的解析が求められている.

 

膨張宇宙に関する誤解

宇宙の膨張を説明する際によく用いられるのが表面に経線と緯線を描き入れたゴム風船で,3次元空間を2次元面で表現している.この風船を膨らませれば任意の2点間の距離は増加し,その相対速度はその距離に比例する.また,特別な中心もない.しかしこれからは(A)風船には中心があり,(B)その特別な一点に対して膨張し,また(C)風船には果てがあって体積は有限であり,(D)風船の内側にも外側にも空間は広がっているという印象を受ける.(A)は宇宙空間が2次元面に対応しているので風船面の外を考えてはいけないこと,(B)はあくまでも風船の表面上の任意の2点を考えなければならないこと,(C)は2次元面上を動く限りは果てがないこと(風船の比喩に関しては一様等方宇宙モデルで体積は有限だが果てがない宇宙,体積は無限で果てがない宇宙の両方の可能性がある),(D)も2次元表面のみを考えなければならないことからそのような印象からの誤解は解消できる.

 

ダークマター

ダークマターは光を直接発しないという,元素とは全く異なる性質を示すものの,重力を感じて互いに空間的に群れ集まる性質は元素と共通である物質のことである.元素からなる銀河や銀河団のような光を発する天体の周囲にはダークマターも存在するはずである.光を発する天体の力学的な運動からダークマターの重力がそれらの運動に与える影響を見積もることができる.バリオンの量はビッグバン元素合成理論と軽元素量の観測値から宇宙全体の5%しかないことが示され,ダークマターは単なる光らないバリオンではない.その為,ダークマターは標準理論の枠内では同定されていない未知の素粒子だと考えられている.その直接検出を目指した多くの実験が行われている.

 

宇宙マイクロ波背景放射

宇宙誕生後約3分におけるビッグバン元素合成時期以降における重要な出来事は水素の再結合である.電離水素が宇宙膨張に伴う温度低下のために電子と結合してより安定な中性水素原子になる過程である(地上ではなく宇宙史においては再結合ではなく初結合である).水素原子の電離エネルギーは13.6 eVで,これは16万Kである.しかし,再結合が始まるのは宇宙が約4000 Kの時である.これは陽子数に比べて約10億倍もの膨大な数の光子が存在し,16万K以上の温度に対応するエネルギーを持つ光子が統計的に10億個に1個未満になるまで待たなければならない.再結合以前はプラズマ状態で光は自由電子により散乱され直進できないが,再結合が進めば宇宙は中性化し自由電子がなくなり,宇宙の晴れ上がりとなる.この再結合は10万年かけて終了する.その時の宇宙の温度は約3000 K,誕生後38万年のこととなる.電磁波を用いる限りはこれより過去の宇宙の直接観測はできないが,その最遠方の様子が宇宙マイクロ波背景放射である.その頃からスケール因子が1000倍膨張し,温度は2.7 Kとなり,そのピーク波長がマイクロ波と呼ばれる電波の領域に対応している.現在の宇宙空間の水素の電離は宇宙の晴れ上がり以降の天体からの紫外線輻射によるものだと考えら,宇宙の温度が20-30 Kの頃のこととされている.

 

宇宙生物

マイヨールとケロが発見した51Peg bという太陽系外惑星は中心が太陽とよく似た恒星で,太陽系に似ているので,この発見により地球外生物についての探査の可能性が真剣に検討されるようになった.その最終ゴールは地球外生命探査だが,それは難しいので天文観測によるバイオシグニチャーの検出が検討されている.生命誕生の必要条件も十分条件もまだ不明だが,地球においては海の存在が本質的であったため,惑星表面に液体の水が存在する領域がハビタブルゾーンと呼ばれ,その中の惑星がハビタブル惑星と呼ばれている.温度の他,惑星の大気組成,温室効果,気候,自転軸の傾きなどが重要な因子となる.太陽系の場合は0.7-1.4 auだが,その誕生当初は0.56-1.13 auほどで,それらが重なる0.7-1.13 auを永続的ハビタブルゾーンとしている.バイオシグニチャーとしては大気スペクトルの酸素やオゾン,メタンなどが考えられるが,不明なことも多い.分光観測は惑星大気の組成決定に重要だが,より広く相補的なバイオシグニチャーを模索する必要性は高い.植物の葉の反射率が0.75 µm以上で急激に上昇するという普遍的な特徴であるレッドエッジなども検討の対象である.