太陽と太陽系の科学

太陽と太陽系の科学について簡単にまとめました.

 

金星探査機「あかつき」の成果

2015年12月の4日間にわたる中間赤外カメラを用いた観測の結果,南北方向10000 kmに及ぶ大気の弓状の模様が恒常的な東風であるスーパーローテーションの影響を受けないことを確認した.数値シミュレーションの結果,アフロディーテ大陸付近の大気下層の乱れから生じた波が南北に広がりつつ上空に伝播し,高度65 km付近にある雲の上端を通過する際に弓状の温度の模様を形成することが示唆された.

 2016年5月5, 6日に紫外イメージャで波長283 nm,365 nmにおけるグローリー(太陽,あかつき,金星が位相角ゼロで並び,反射光の強さが極大になる現象)を追認した.また,波長283 nmにおけるグローリーは歴史上初の観測となった.グローリーでは紫外吸収物質二酸化硫黄による暗い模様と,位相角ゼロ付近の明るい模様があり,エアロゾルの平均粒子半径が1.26 µmとされ,先行研究の結果が確認できた.モデル計算の結果,暗い模様での二酸化硫黄の存在量は雲頂付近で80-400 ppbvと見積もられた.このことは金星のアルベドの特性を考察する上で重要である.

 2016年のある時期には金星大気の中・下層雲領域(高度45-60 km)で赤道ジェットを発見した.その変動は予想外に大きく,今後その形成理論や数値計算によりスーパーローテーションのメカニズム解明に役立つことが期待される.

 2017年12月に,2年間にわたる中間赤外カメラの観測結果から,先述の金星大気の弓状構造が常には存在せず,4つの標高の高い山脈上空から2-3ヶ月に1回発生し,1ヶ月近く存在し続けることを確認した.発生タイミングは正午を過ぎ夕方に差し掛かる頃で,タイムスケールは異なるが地球の海陸風と似ていた.弓状構造の形成の原因は下層大気で励起され雲層まで伝播する大気重力波であると考えられ,スーパーローテーションを減速させると考えられる.その励起メカニズムは不明で,定在波の効果が金星大気の理解に必須となると考えられる.

 

土星の環の形成モデル

環は衛星などと相互作用している.土星土星半径の1.11-2.27倍の場所に 主にA, B, Cという3つの環を持ち,他にもE, F, Gなどもっと細い環を幾つも持つ.環は数µmから数mまでの粒子で構成され,ほとんど氷が主成分だが,炭素質隕石に似た組成のものもあるとされる.厚みはせいぜい数十mである.このような環は何らかの理由で供給された粒子群が集団として土星の周囲を回ることで形成され,その起源は幾つかある.環の多くは衛星など何らかの天体が惑星の重力により分裂して供給されたと考えられる.例えばE環はエンケラドゥスの南極付近から放出された塵やガスで形成されている.惑星の周りを公転する粒子は自己重力によって周囲の物質を引き付ける.これが自己潮汐力よりも大きい領域(ヒル半径以内)は土星に近づくほど小さくなる.惑星からの距離がある値(ロッシュ限界半径)よりも小さくなると,2つの同じ大きさの粒子の半径の和より粒子のヒル半径が小さくなり,これは潮汐力の影響が強すぎて自己重力で他の粒子を束縛できなくなることを意味する.このような条件下では粒子は集合せず,環としてある軌道に広がる.ロッシュ限界半径よりも外側では自己重力が潮汐力よりも大きいので粒子が集まり衛星となる.この為,土星に近い場所に環,遠い場所に衛星が存在する傾向がある.この環はさらに周囲の衛星との間の軌道共鳴などの影響で明瞭な間隙を形成する.

 

太陽系の形成モデル

「ニース・モデル」は2005年にフランスのコートダジュール天文台の研究者が中心になって考案した.このモデルでは,木星から海王星は太陽から5-17天文単位の距離で生まれたとする.特に天王星海王星が現在の位置よりもずっと内側で誕生したとする.その順番は木,土,海,天だったとされる.木星土星が2:1の平均運動共鳴状態(平均の角速度の比が2:1)になると,惑星の軌道が大きく乱れて,天王星海王星は順番が逆になって遠方の軌道に移ったとされる.遠方の軌道に移ったそれらの惑星は,外側の軌道にあった微惑星を散乱し,大量の微惑星を太陽系の内側へと落下させたとされる.このことで,「後期重爆撃期」と呼ばれる41億年前から38億年前に起こった月への多数の天体の衝突も説明できる.

 

エンケラドゥス

土星の衛星の中で6番目に大きいエンケラドゥスは半径が250 kmほどだが,カッシーニ探査機によって南極周辺から水が噴出していることが確認された.噴出口周辺はクレーターが少なく若い表層年代を持つが,タイガーストライプと呼ばれる有機物に彩られた並行に走る地溝が存在する.この地域が周辺より数十°C暖かく,地下の熱源で溶融した水や水蒸気が間欠泉のように噴出していると考えられる.噴出物中には有機物,ケイ酸塩,ナトリウム塩,炭酸塩などが含まれる.その為エンケラドゥス内部で液体の水の海が存在し,その水が内部の岩石コアと高温で触れ合う熱水環境があると考えられる.つまり,エンケラドゥス内部は生命の誕生や生存に重要なエネルギー,液体の水,有機物という3要素が今でも存在すると考えられる.

 

小天体の地球への衝突

天体が地球に衝突すると,大きな災害となり得る.例えば直径1 kmくらいの小惑星が衝突するとマグニチュード10近い地震が起き,海に落下すれば落下地点から1000 km離れたところで高さ100 mもの津波が押し寄せる推定もできる.6600万年前には恐竜など多くの生物が滅んで中生代から新生代に移行したが,それは直径10 kmほどの天体の衝突が原因だと考えられる.天体衝突による環境変化に耐えられなかった生物が絶滅したとされる.このような衝突の確率は小さいが,一度起こると大惨事になるので,天体衝突に備えるスペースガードの活動を国連レベルで維持するべきである.それはまず観測によって地球に衝突する天体を探し出し,そのような天体が発見されれば衝突回避を試みることである.時間がなければ核兵器による天体の破壊なども効果的な場合もある.

 

オールトの雲

彗星の起源として,オランダの天文学者ヤン・オールトが長周期彗星の軌道の系統的な解析から太陽から1-10万au離れた領域に「オールトの雲」の概念を提唱した.しかしこの領域の冥王星クラスの小天体でも見かけの等級は40等級くらいで,現在の望遠鏡では観測できない.しかし,太陽系の全貌を明らかにするにはこの領域の探査が必須である.10万auは約1.6光年であり,太陽に最も近い恒星であるプロキシマ・ケンタウルリまでは約4.2光年なので,太陽の重力圏の範囲とも言える.

 

探査機を用いた太陽系研究

太陽系天体探査の手法としてはフライバイ,ランデブー,サンプルリターンがある.フライバイは目的の天体の近くを通り過ぎ,太陽系天体探査の初期から最近まで多数行われている.ランデブーは探査機が目的の天体に到達しそこに留まるもので,その天体の周りを回る周回機となることが多い.「はやぶさ」の場合はホバリングするので周回しない.速度制御が必要なために高度な技術が求められる.目的の天体に着陸する場合はより高度な技術が必要となる.地球に戻ってくる往復探査で目的の天体の物質を持ち帰るものがサンプルリターンである.サンプルの採取は飛行しながらの場合と着陸をする場合がある.非常に高度な技術を必要とする.月より遠い天体では,米国の探査機ジェネシスが2004年に太陽風に含まれる粒子を採取し,スターダストがビルト第2彗星が放出した塵を採取し2006年に帰還した.日本の「はやぶさ」は小惑星イトカワの表面の物質を2010年に持ち帰った.「はやぶさ2」は小惑星リュウグウの表面のサンプルを2020年に持ち帰った.さらに米国のオシリス・レックス計画では小惑星ベンヌの表面のサンプルを採取して2023年に持ち帰った.今後の探査の動向としては,月探査による月資源の利用の検討がある.月面のヘリウム3は核融合の原料となり,鉱物資源や水もあると考えられる.月には大気がないため天体観測や,月の裏側での電波天文観測なども考えられる.惑星探査では,火星の生命の存在,火星移住やテラフォーミング木星土星の衛星での地球外生命の探索などが考えられる.米国は金属で構成されていると思われる小惑星プシケにランデブーする「サイキ」計画,複数個の木星トロヤ群小惑星をフライバイする「ルーシー」計画を進行させている.太陽系外縁天体の探査も冥王星を2015年7月にフライバイしたニューホライズンを皮切りに行うべきである.

 

地球外生命

地球外生命はどのような形態なのか,炭素を主骨格とするのかも分からない.ただし地球と同じような環境があれば,同じような生命が生まれ,進化していても不思議はない.生命の材料はアミノ酸やタンパク質だが,それらに含まれる元素は酸素,窒素,炭素,水素などである.水素は宇宙初期から存在し,その他の元素は全て恒星の中で合成された.46億年前に,太陽系も宇宙が誕生してから数世代にわたり世代交代をしたガスと塵の雲から生まれ,それより前の世代の恒星の作った生命の材料を含む物質が十分な量,存在していた.恒星が輝き世代交代をしていれば,生命の材料は宇宙のどこでも存在している.ただし,地球の生命にとっては水は必須だが,それは地球のように液体で存在するとは限らない.恒星からの距離が適切で,ある程度の大きさの天体の表面で,水が液体で存在できる領域が「ハビタブルゾーン」となる.恒星が第一世代でない限り,適切な大きさの惑星がハビタブルゾーンに存在すれば生命の存在の可能性がある.スーパーアースとしてケプラー62eと62fも見つかっている.太陽のような高温の恒星でなく赤色矮星を公転する惑星だと,ハビタブルゾーンの中にある地球型惑星の数はもっと多くなる.プロキシマ・ケンタウリやトラピスト1の周りでも見つかっている.ただし,赤色矮星は大規模なフレアが多く,惑星に大気があるのかどうかは分からない.惑星大気に酸素やオゾンが含まれていれば,それらは生命活動がないと長くは維持できないので地球型生命存在のバイオマークとなる.火星や巨大ガス惑星の衛星の地下の海での生命探査は今も行われている.さらに,生命活動は物質自体ではなくそれらの相互作用のあり方が肝なので,生命の定義の議論にまで立ち返って物質を超えてメタに認識できる何らかの相互作用の集合としての生命を議論することも可能かも知れない.

 

銀河系の形成と進化の中での太陽系の形成と進化

太陽は銀河系にある多数の恒星の1つである.太陽は現時点では孤立した系のように見えるが,そのガスは銀河系円盤の星間ガスと衝突して太陽系の尾として観測される.太陽系の年齢は約46億歳だが,VERAでの観測により太陽系の銀河中心からの距離は26100光年であり,公転速度は240 km/sであることが判明した.銀河系は美しい渦巻と棒状構造を持つSBc型の円盤銀河だった.太陽はその誕生から銀河中心を約22回周り,現在は星間ガスが希薄な所を通過しているが,巨大分子ガス雲を通過すれば大きく重力散乱される.銀河自体は138億年前にインフレーションにより生まれた宇宙で,2億年ほど経つと冷たい分子ガス雲ができて恒星が生まれだし,銀河の種となったことが始まりである.ダークマターが支配する重力相互作用の中で銀河系は生まれ,数十億年後にはアンドロメダ銀河や他の40個の小銀河と合体して巨大な楕円銀河となる.その頃には太陽がまだあれば楕円銀河の比較的外側で,太陽系は消滅している.銀河における生命のハビタブルゾーンの条件としては,生命活動を維持するのに必要な液体の水の存在,安定した生命活動を維持できる場所としての陸地の存在,生命の進化に十分な時間が確保できる主星の存在,主星の周りを回る惑星の公転軌道が力学的に安定している,他の恒星との遭遇頻度が低い,周辺で超新星爆発が発生する頻度が低い,巨大分子ガス雲との遭遇頻度が低い,化学組成が適切になるように銀河円盤の適当な位置に存在する,などが考えられる.