数字の独り歩き

ファイザーのワクチン,感染予防で高い効果を示す−イスラエルの研究」という記事では,ワクチンのSARS-CoV-2に対する感染予防率が89.4%となっています.

 

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-02-21/QOVRAMDWLU6I01

 

ただ,この記事の英語の原文に目を移すと,ニュアンスが違っています.

 

https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-02-21/pfizer-biontech-shot-stops-covid-s-spread-israeli-study-shows

 

まず “Some scientists disputed its accuracy.” という文がありますし,その具体的内容としては調査が症状の伴う感染にフォーカスしたもので,論文は査読を経ておらず,ワクチン接種者にはそもそも接種後に検査を受けにくいバイアスもあり,感染率の計算が過小評価されるので確固たる証拠とは言えないものだと続いています.良いニュースかも知れないがまだ分からない,というのが常識的な専門家の共通した意見だと思います.世の中にはワクチンの発症抑制率や感染予防率に関して様々な数値が飛び交っていますが,考えられ得る環境要因のコントロールが全て取られたデータというものはまだ有りません.全てザックリとしたマクロなアウトプットなので,それらに関係する要因は数多あります.ワクチンの効果がはっきりするのには(1年間の自然科学的要因や社会科学的要因の全ての遷移を取りあえずは一通り経たという意味で)少なくとも1年はかかります.ワクチンがどれだけの期間免疫を保てるかも,まだ全く未知の世界です.何がどういう手法で計算されたかで結果はガラッと変わる可能性があるのですね.それらのニュアンスが日本語の記事抜粋では全くもって消えていますし,似たような状況はこれまで何回も目にして来ましたので,注意が必要です.