David Bowieの曲をアルバム56枚,739曲分流し込む作業をしている.スタジオレコーディングを一通り聴いたので,Nothing Has Changedを聴いて復習がてらクールダウンしているところだ.明日以降,ライブ盤やサントラ盤を聴くことになる.
私がDavid Bowieを認識し出したのは中学生の頃だ.ボーリング場に附属しているゲーセンの競馬ゲームでゲーム用のコインが持続的に儲かることがよく考えていれば出来ることに気付いたので,儲けの分のコインでジュークボックスのDavid Bowie and Mick Jagger “Dancing in the Street” をよく聞いていた.
巫山戯て踊っている姿を見ていたその頃からBowieはヒーローだった.2016年に彼が亡くなった時,ベスト盤のNothing Has Changedと最後のアルバムの★を購入した.★は紛れもなく死を意識したBowieのファンへの最高の別れの作品だった. “Blackstar” はその冒涜的な部分も含めてBowieの作品の中で最も気に入っているものの1つだ.
“Lazarus” には死に臨んだBowieの心境が綴られている.Nothing Has ChangedはBowieのキャリアをほぼ通して選曲された作品が詰まっている.選曲的に少しポップな形のものに傾いているキライがあるが,そこにはまだBowieを認識する前から子供心に刻まれてきた音楽のフレーズが満ちていた.調べてみるとBowieが関わっているとは知らずに自分の印象に残っている映画も多くあるようで,Bowieに興味が湧いてスタジオレコーディング全てと生前のライブ盤,それにサントラ盤を集めた.私が持っているレパートリーの中ではThe Beatlesの作品の次に充実しているので,キャリアの歴史を自分の頭の中で再構築することが出来る.
BowieはPhilips Recordsから1969年にSpace Oddityを出し, “Space Oddity” は後に実際の宇宙飛行士が宇宙ステーション内でカバーを披露するなど話題となった. “Memory of a Free Festival” は当時の若者文化をよく体現している.1970年にはMercury RecordsからThe Man Who Sold the Worldを出し,音楽の背景にあるコンセプトにおける創造性はこの頃に既に垣間見られる. “The Man Who Sold the World” はNirvanaもカバーした名曲だ.1971年にはHunky DoryをRCA Recordsから出し, “Changes”, “Life On Mars”, “Oh! You Pretty Things”, “Queen Bitch”, “Kooks”, “Andy Warhol”, “Quicksand” など名曲揃いだった.コンセプトの面からは次のアルバムには敵わないが,Bowieの個性が遺憾無く発揮されているという面ではThe BeatlesのRevolverにも匹敵するものだ.1972年にThe Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from MarsをRCAから出し,コンセプトの親しみやすさから一般受けはBowieのアルバムの中でおそらく最も高いものだと思われる.The BeatlesならSgt. Pepper’s Lonely Hearts Club BandやAbbey Roadに匹敵するといったところだ.精神病院に入れられた兄への思いも,引き続き語られている.1973年にRCAから出したAladdin Saneは本国のイギリスだけではなくアメリカ合衆国の文化も取り入れ,その印象的なメイクは大変有名だ.同じ年にはRCAからカバーアルバムであるPin Upsも出しているが,全てのカバーがBowie流に洗練されたものになっていて興味深い.1974年にはRCAからDiamond Dogsを出した.George Orwellの小説 “Nineteen Eighty-Four” のミュージカルを企画して頓挫した残骸から構成されたものだが,“Nineteen Eighty-Four” のディストピアを反映したものになっている. “Diamond Dogs”, “Rebel Rebel” などの名曲の他にも “1984”, “Big Brother”, “Chant of the Ever Circling Skeletal Family” などの曲が収められている.
1975年にRCAから出したYoung Americansでは,それまでのコンセプト形式から脱却してソウルフルな音作りになっている.John Lennonの名曲 “Across the Universe” のカバーではJohn Lennonと “…Nothing! …Nothing!” などとシャウトするのが胸熱だ.1976年にRCAから出したStation to Stationではファンクも取り入れ,the Thin White DukeとしてNietzscheやCrowley,その他の古典などの世界観を継承している.RCAから1977年に出したLow, “Heroes”, 1979年に出したLodgerはBerlin三部作と呼ばれ,instrumentalが多いが東ベルリン経由で東欧の重厚さの影響を受けた音作りが為されている.音楽的には普通はこれらが最高傑作とされている.1980年にRCAから出されたScary Monsters (and Super Creeps) は自身を道化にした “Ashes to Ashes” など,またコンセプトアルバムに逆戻りしている. “It’s No Game (Part 1)” ではクサイ日本語の台詞(わざとらしい)が入っているのは有名な話だ.Bonus Trackのカバー曲 “Alabama Song” はその不気味な世界観が良い.
EMIから1983年に出したLet’s Dance,1984年に出したTonight,1987年に出したNever Let Me Downはオルタナ三部作で,前二者は商業的には成功しているものの,Bowieの個性は大分弱まっているように感じられる.1989年にはEMIからTin Machine,1991年にはLondon RecordingsからTin Machine IIをTin Machineのメンバーとして出しているが,ここまで来るともう何がしたいか分からなくなり,音楽的にも商業的にも不調だった.
1993年Arista Recordsから出したBlack Tie White NoiseやThe Buddha of Suburbiaの頃になるとやっと自分を振り返ったBowieらしい音作りが取り戻せたようだった.そして1995年にはArista Recordsから1. Outsideが出た.商業的には不調で,五部作の計画は最初に頓挫したが,インダストリアルロックを取り入れたその音作りはこれをBowieの最高傑作とする向きもある.私もそうだと思う.映画の “Seven” を遥かに超えた荒廃した世界観がそこにはある.Arista Recordsから1997年に出したEart hl i ngもそれを継承した音作りになっている.