【追記あり】伊豆固有の細胞性粘菌?

本日2023年6月23日のNHK朝ドラ『らんまん』では,万太郎さんの名前がついた初めての植物の種が記載されることになっていた.こういうことはワクワクするものだ.

 

私はかつて伊豆半島中南部で細胞性粘菌の野外調査をしている時に,シロカビモドキPolysphondylium pallidum, ムラサキタマホコリカビDictyostelium purpureum,ムラサキカビモドキPolysphondylium violaceumという日本において最もメジャーな三種の細胞性粘菌の隠蔽種ではないかと思われる株をそれぞれ見つけている.

 

その理由は2つあって,1つはrDNAのITS配列が従来株とは別種ほど異なっているということだ.Polysphondylium pallidumについては

 

https://doi.org/10.1007/s11692-015-9312-0

 

の論文でもデータを出しているが,他の2種についても確認している.もう1つは,これらの株は従来株では高温過ぎて子実体が形成出来ない32°Cでも子実体を形成できるということだ.子実体の形態上は従来株とは区別出来ないが,こういう特徴があるので隠蔽種ではないかと思っている.おそらく最も単純な解釈は,伊豆半島がまだ南の海の島だった時にその島にやって来た従来株の種が種分化し,高温耐性になったというストーリーだろう.伊豆半島ではトカゲでもオカダトカゲが分布し,ヒガシニホントカゲニホントカゲとは異なる種が存在している.つまり,そこで種分化するのは十分にあり得る話だ.少し不思議なのは伊豆半島中南部では細胞性粘菌の従来株と隠蔽種と思われる株とが混在しているように思われることだ.トカゲの場合は別種の分布はほとんど重ならないと言われているので,それとは異なるようだ.共存のメカニズムはまだ分からない.

 

伊豆という地は地学的にも生物学的にも面白い場所がコンパクトに存在しているので,本当は9ヶ月間だけでなくもっと居たかった.しかし,自分の将来設計を自由に選べる立場にないのでそれは叶わなかった.三種の記載や,伊豆半島など静岡県,神奈川県,北海道,徳島県で集めた細胞性粘菌の野生株のバイオリソースプロジェクトへの寄贈も本来ならやるべきだろうが,それを可能にするリソースが提供される立場にないので出来ていない.野生株のストックはまだラフにしか単離しておらず,カビの混入を完全に防ぐのは非常に難しいので,それをそのまま寄贈という訳にはいかない.それで,自宅の冷蔵庫でずっと眠ったままになっている.いろいろ苦しいところだ.

 

【追記】実家のマルバマンネングサSedum makinoi,今花が咲いているようです.