緋文字

ナサニエル・ホーソーン『緋文字』に関して簡単に感想を述べました.

 

小説としての面白さ

ポイントとしてはアメリカの魔女狩りの歴史,ピューリタニズムの抑圧,それを担った先祖に対する作者の思い,近代個人主義プロテスタンティズム,19世紀の超絶主義,英米の小説作法の違いなど多岐に渡る.姦通を扱った小説だが,登場人物の心理を徹底的に描くことで時空間を超えた普遍性が生まれている. 姦通は罪だが単純な悪ではなく,古典的な回心の物語が迫力を持って描かれている.

 

登場人物

へスターはキリスト教徒の抱く聖母マリアへのイメージに回心を通して挑戦する.娘のパールは異界からの使者のようなイノセンスと魔性を併せ持つ.へスターの姦通相手のアーサーは尊敬された聖職者だが,心身を蝕まれて情熱的な演説をぶった後で自らの罪を告白して生き絶える.へスターの元夫のロジャーは有能だが冷徹で不寛容な人物として復讐への気持ちを持っている.

 

18-20世紀の結婚観

18世紀は女中が当主の誘惑を避けながら正妻の座を得ることなど秘跡としての結婚が持て囃されていたが,19世紀にキリスト教の凋落とロマン派の勃興と共にそれは揺らいで20世紀のより自由な結婚観へと変貌した.