罪と罰

ドストエフスキー罪と罰』に関して簡単に感想を述べました.

 

あらまし

ドストエフスキーの作品は重厚長大だが,それほど親しみにくいものでもなければ難解でもない.また,深遠だが軽妙でモダンでもあり,現実への緻密な取材から出来上がった日本の都会の喧騒とも近いリアリズムの世界でのことで現代的である.個性的な人物の生々しい姿と細部に渡る描写が人間ドラマと思想ドラマを演出し,ポリフォニー的な世界を形成している.現代日本には合わない点を強いてあげるとすれば,作品が長くてほとんど何も考えずに軽く読めるものではないということがあるだろう.

 

印象的な登場人物

スヴィドリガイロフは「永遠」なんてものは「田舎の風呂場みたいなすすけたちっぽけな部屋があって,その隅々に蜘蛛が巣を張っている程度のことだ」というアイロニーを示し,悪魔的である.こうして形而上学的な概念をいきなり地上に引き下ろすことで,オーソドックスな聖書の解釈に挑戦し,ラスコーリニコフとソーニャの物語とはどういうものなのか,彼らは本当に許されないのだろうかということに疑念を投げかけている.

 

物語のその後

この小説はオープンエンドで,主人公のラスコーリニコフとソーニャは共に破滅しながら支え合い,本来のキリスト教的には新しいイェルサレムに入ることを許されない殺人者と娼婦の筈が新約聖書の「ラザロの復活」の如く復活への希望を抱いて生活することが予想される.

 

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「西洋芸術の歴史と理論」の第10回目の講義では,ベルニーニなどに代表されるバロック美術が対抗宗教改革としての総合芸術であり,臨場感やダイナミズムを重視する演劇的性格を持つことが述べられた.実際の作品を鑑賞すれば,こういう俯瞰的印象は明らかだった.