自然描写の変化
作品内の自然描写の変化はそのままヴェルターの心境の変化と対応し,ヴェルターには自然が自己に影響を及ぼす何らかの強大な力の作用,秩序と破壊という両義的な作用として感じられるようになる.それはその自然の絵画表現としての表出の限界としても現れる.
ヴェルターの最期の言葉の意味
森羅万象の限界に突き進むヴェルターは,恋に破れ,感情の媒体としての書物内の人物や,挿話として語られる別の個人のエピソードへの同一化を経て,生み出し破壊する力として固定できない自然の力が自己の内部にも働いているように感じられるようになる.そして,そこからの自由を願い,制約を受けることなく自らの生を意味付け,その限界を越える為に自死を選ぶ.これがヴェルターの最期の「さあこれでいいさ!」という発言で肯定されている内容である.それは決して傷心や絶望の果ての行為ではない.
ヴェルターの社会的交流
ヴェルターは身分制や秩序の中の同世代の若者には馴染めず,可能性の凝縮された者として純真無垢で偏見の少ない子供達と交流するようになる.しかし,それが周囲との衝突を生む.
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「西洋芸術の歴史と理論」の第5回目の講義では,中世における輪廻転生のプラトン主義としてのロマネスク美術が扱われた.死は新たなる生であるという異教的・土着的・民衆的文化がキリスト教世界と融合し,多様性のある彫刻が多様性の尊重という意味での普遍性へと繋がる様を,豊富な実例で学べた.この講義は壮大な講義だ.