『ネジの回転』評

ヘンリー・ジェイムズ『ネジの回転』に関して簡単にまとめました.

 

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『ネジの回転』はジェイムズの作品らしく心理描写が繊細であるが,指示語が何を示しているのかが分からない時がある.それがジェイムズの小説技法であることを後述する.ジェイムズの作品はアメリカ小説らしく主人公が自然や世界そのものと対峙し,真実は何かということで寓話的な意味を持つ.しかしイギリス小説風の人間観察の系譜も取り込まれ,それが作中の会話の微妙なトーンの違いを書き分けることに利用されている.そして洗練さには欠けるが純粋なアメリカ人と,洗練はされているが退廃的なヨーロッパ人との二項対立が描かれている.そして話は真実を求めつつもその究極の曖昧さに直面せざるを得ないという展開になる.『ネジの回転』ではゴシック小説的で,暖炉を囲んだ夜話から伝聞調を織り交ぜた物語が展開される.主人公は若い女性で,彼女が貴族の家の家庭教師になるところから物語が始まる.家庭教師は依頼主に仄かな憧れを抱くが,やがてある人物を目撃するようになる.子供たちはその人物に接触し,何かを知っているが知らないふりをしているようである.つまり,外の人影(子供のマイルズ)が目線を送ってきているようで,子供達にも汚れがあるのかどうかということが争点になる.ただし性にまつわる情報は徹底的に隠蔽され,それが過剰で倒錯的なエロティシズムとなる.19世紀的な「崇高」の感覚が疑われ,神や英雄はいない.日常風景は退屈で,全能な語り手よりも見えない部分だらけの視野から来る面白さが追究されている.