スワンの恋

プルースト『スワンの恋』に関して簡単にまとめました. あらすじ 作家志望の「私」の精神的な遍歴を辿る物語で,『失われた時を求めて』の第一篇第二部として全体の雛形を成す.パリの社交界の一角を成すヴェルデュラン夫妻の一見華やかだが如何わしさもあ…

【追記あり】『いきものの「種」はどのように決まるんだろう』出版

【追記】 「『いきものの「種」はどのように決まるんだろう』という新書をKindleとPODで出しました.」 と昨日投稿しましたが,Kindleの方のサイトが今見えなくなっているようです.Kindle版を購入しようと思っておられる方はしばらくお待ち下さい.POD版の…

ゴリオ爺さん

バルザック『ゴリオ爺さん』に関して簡単にまとめました. 小説としての面白さ 『ゴリオ爺さん』の面白さは個人と環境,社会を結びつけて時代の全貌を描きだそうとするリアリズムにある.さらに,そうした素材を想像で変形し,神話のような象徴的表現も加え…

PLUTO

I have watched a Neflix animation series “PLUTO”. It is based on a manga written by Naoki Urasawa, whose original version is from one of the famous episodes of Osamu Tezuka’s “ASTRO BOY (鉄腕アトム)”. The impression of this story is strong…

告白

ルソー『告白』に関して簡単にまとめました. 印象的なエピソード 唯一無二の存在として自負心が高く,周囲と打ち解け和えずに奇行も目立つが,それでも著作を出すことでコミュニケーションを諦めなかったことが,フランス革命の思想的基盤となった.即ち,…

トーニオ・クレーガー

トーマス・マン『トーニオ・クレーガー』に関して簡単にまとめました. 『ハムレット』との類似点 ハムレットはデンマークの王子だが,トーニオ・クレーガーも作中でデンマークへ旅行することにする.それはハムレットの城だと伝わるクロンボー城を訪問する…

若きヴェルターの悩み

ゲーテ『若きヴェルターの悩み』に関して簡単にまとめました. 自然描写の変化 作品内の自然描写の変化はそのままヴェルターの心境の変化と対応し,ヴェルターには自然が自己に影響を及ぼす何らかの強大な力の作用,秩序と破壊という両義的な作用として感じ…

嵐が丘

エミリー・ブロンテ『嵐が丘』に関して短文4つを書きました. 『嵐が丘』の中の語りの特徴 『嵐が丘』で描かれているのは,宗教的な解釈もできる冒頭の不可解な夢で結末が閉じないことを示唆することに始まり,名前を共有する異なる登場人物の相互的な同一化…

ガリヴァー旅行記

スウィフト『ガリヴァー旅行記』に関して簡単にまとめました. おとぎ話的要素の作品への利用 動物が人間と会話して人間的な理性を持っているというおとぎ話的要素が,人間の引き立て役に回っていた動物が人間を貶める側に立つという設定へと利用されている…

Everything Everywhere All at Once

“Everything Everywhere All at Once” という映画を観た.荒唐無稽な映画だが,これを観ていてNHKアニメの『雪の女王 〜THE SNOW QUEEN〜』に出て来る「愚か者」をその笑い声と共に思い出した.何時の世でも話をおかしくするのは「愚か者」である. 愚かなこ…

The Northman

I have watched a movie “The Northman”. It was directed by Robert Neil Eggers, the director of “The Lighthouse”. In “The Northman”, Willem Dafoe also appears as the previous movie. The story is inspired by the legend of Amleth, or the famou…

Mt. Kisenyama(喜撰山)

On October the 7th 2023, I climbed Mt. Kisenyama(喜撰山).Mt. Kisenyama is told to be a residence of Kisen, who was a monk in early Heian era. He is said to have become an unworldly man. He is famous for a tanka, “わが庵は都の辰巳しかぞ…

ロミオとジュリエット

シェイクスピア『ロミオとジュリエット』に関して短文4つを書きました. 『ロミオとジュリエット』の喜劇性 シェイクスピアの喜劇『夏の夜の夢』ではアテネの職人たちが大公シーシュースの婚礼の余興に『ピラマスとシスビー』の悲劇を上演し,演技の素人で演…

ドン・キホーテ

セルバンテス『ドン・キホーテ』に関して短文5つを書きました. 『ドン・キホーテ』の音読の効果 『ドン・キホーテ』を音読した場合,会話のちぐはぐさや多種多様な語り口の違い,会話における駆け引きがリアルタイムで直に味わえる. ドン・キホーテとサン…

The Lost King

I have watched a movie “The Lost King”. It is a story based on a true story, in which how Philippa Jayne Langley discovered remains of King Richard the 3rd. It is a story for ordinary people, or people of some matters who have dreams in th…

Aris and Telēs’s phantom plant(アリスとテレスのまぼろし工場)

I have watched a Japanese animation movie “Aris and Telēs’s phantom plant(アリスとテレスのまぼろし工場)”. In Japanese, “Aris-to-telēs” means “Aris and Telēs”. It is a story for people who feel discomfort in present status. The main topic…

「「数学」が進化の法則を制御していたと判明!」?

ナゾロジーという曰くありげなサイトに,「「数学」が進化の法則を制御していたと判明!」という,意味不明のタイトルの記事が出ていました. nazology.net 進化生物学では元々進化の数理的な解析が主流なので,これでは何が目新しいのかさっぱり分かりませ…

テクストと旅

「テクストと旅」について文章3つを書いてみました. 旅の意義の歴史 古代の旅はアイデンティティの探求,新天地の開拓などのためであり,中世の旅は自己実現や社会との関わりを探究するためである.現代の旅は閉塞した時代と偏狭な社会的拘束を逃れ,悠久の…

位相的データ解析から構造発見へ

本日, 池祐一ら『位相的データ解析から構造発見へ』(サイエンス社)という本が届いたので,目を通した.主にパーシステントホモロジーについての本で,私が https://doi.org/10.1371/journal.pone.0179180 やhttps://doi.org/10.48550/arXiv.1603.00959 で…

妖精の女王

エドマンド・スペンサー『妖精の女王』について文章3つを書いてみました. 第1巻のエルサレムへの巡礼のイメージの意味 イギリスが至高の女王かつ帝王として君臨する栄光に満ちたエリザベス1世の下で理想の王国になることへの願いを表している.つまり,巡礼…

カンタベリー物語

ジェフリー・チョーサー『カンタベリー物語』について文章2つを書いてみました. 登場人物の理想化や揶揄について 騎士,粉屋,料理人,法律家,学僧,貿易商,免罪符売り,船長,修道士,托鉢修道士,女子修道院院長,医者,教区司祭という具合にそれぞれの…

放送大学雑感8

放送大学の講義の受講はもうすぐ2年目の2学期になる.以前は今年の1学期まででひとまず止めようと思っていたが,情報系などもう少し学んでおいた方が良さそうな案件が出てきたので,2学期も学習することになった.そうすると単位数が多くなるので,いっその…

エセー

モンテーニュ『エセー』について文章2つを書いてみました. 『エセー』「空しさについて」におけるモンテーニュの「外国」について 空しさについて書くこと以上に明らかに空しいことはないとした上で,「何から逃げたいのかはよくわかっているが,何を求めて…

アーサー王物語

アーサー王物語について文章2つを書いてみました. あなたにとっての聖杯探索の結末と聖杯とは何か 帰って来なかった騎士のうちの一人が聖杯探索を達成し聖杯を手にしたが,そこで新たなる使命を受けて異世界へ旅立って行ったという噂が流れる中,世界が終焉…

デカメロン

ジョヴァンニ・ボッカッチョ『デカメロン』について文章2つを書いてみました. ノヴェッラのテーマ 女性たちのための愉しみの文学の擁護と,批判への反論,恋愛が不幸な終わりをつげた人々について,残酷な,または不幸な事件のあとで,幸福になる恋人につい…

神曲

ダンテ・アリギエーリ『神曲』について文章2つを書いてみました. 地獄篇の印象的シーン 魂の救済の説明のために話はまず『地獄篇』から始まるが,その途中で古代の智の英雄であるオデュッセウスも地獄の下層で苦難を受けている.オデュッセウスも行方の知れ…

ティラン・ロ・ブラン

ジュアノット・マルトゥレイ『ティラン・ロ・ブラン』について文章3つを書いてみました. ティランの足跡 ティランはイングランドのある領主とブルターニュ公の娘の間に生まれ,イングランドで騎士として修養を積み,フランスの王子と共にポルトガル経由で地…

わがシードの歌

『わがシードの歌』について短文3つを書いてみました. 『わがシードの歌』の口承文芸の痕跡 聴衆への語りかけ,複数の詩行へのまたがりの少なさ,常套句の多用,口語構文の使用などがある. シードとキリスト教徒,異教徒との関係 キリスト教徒に対しては同…

西遊記

『西遊記』について短文2つを書いてみました. 三蔵は『西遊記』の中ではなぜ弱々しいのか 三蔵一行が苦難に遭うことをドラマチックに描こうとすれば,苦難に遭う本人の三蔵が弱々しくないと残りの一行の活躍の場が無くなるから.また,三蔵が弱々しくないと…

遊仙窟

張鷟『遊仙窟』について文章3つを書いてみました. 『遊仙窟』と「桃花源記」,『幽明録』の比較 「桃花源記」とは,桃が生命力や異世界の象徴であったことが共通している.『幽明録』とは,桃と川の登場など日本の桃太郎との共通性がある.理想郷へ行くとい…